Colors of Biker 〜延命〜

――大学時代からのダチ、久地くじ宗則むねのりに女性を紹介する形になる訳だけど、残念ながら既婚者。


「あー、初めまして。久地宗則です。キョウとは大学のサークルの仲間で」

「初めまして、宗則さん。久米木くめぎみかけです。見た目幼いかもだけど、四十代のおばさんなんですよ。美魔女ってやつ?」

「ちょっ、花崗みかげさんが言うと冗談になってないですから!」


 お昼時の来客ラッシュを過ぎた頃合いを見計らって始めたバイク談義のメインテーマは延命。

 まずはメインハーネスの話になる訳だけど。

 結論、宗則の話ではほぼ純正品と同じかそれ以上のクォリティで製作してくれるショップがあるとの事だ。だけどやはり費用はそれなり以上にかかってしまうと。

 当然手順もそれなりに掛かる。まずショップに純正のハーネスをサンプルとして提供してからの見積もりになるし、そのサンプルは勿論返ってこない。で、過去事例から推測すると新品で購入するよりも二倍くらいの値段は想定しておいた方が良いという。


 そしていざ電装だけの話に絞ってみても、乗り続けていく為に必要な配線はそれだけではない。エンジン内部の点火タイミングを知らせるピックアップコイルや発電用のジェネレーターからも延びているし、そして配線だけでなく点火を制御するコンピューターイグナイターもいずれは故障してしまう。これらの部品は汎用品でも置き換え可能な各種リレーやレギュレーターと違って車種専用設計であることがほとんど。

 比較的に配線の組替えで、他車種から流用が可能なハンドルスイッチ周りにしたって純正品と同じ操作感や見た目にこだわるのなら、接点の摩耗消耗と言った問題が出てくる。別に機能すれば他の物でもって感じもするけどあなどってはいけない。ハンドル周りは毎日必ず触れる場所だけに意外と気分に関わってくる。


 彼女の愛車は洋子のカフェ250TRとエンジンや一部の車体周りの部品が共用なのでエンジン周りの中古部品に関しては恵まれている。いや、寧ろ車種的な人気順ならば立ち位置は逆かもしれない。いずれにしても中古でならばまだ道は明るい。

 彼女は宗則の話を食い入る様に聞いていた。


 例えば車体周り、足回りに関しては余程のマイナー車種で無ければ消耗品も心配はいらない。外装の修理に関しても対応可能なショップは多い。


〝乗り続けること〟

 こうして宗則の話を聞いているとバイクも人間と同じ生き物なんじゃないかって錯覚におちいりそうだ。骨や筋肉、そういった外傷よりも、ピストンのようなエンジンの内部パーツ、言うならば臓器の方がより深刻。さらに神経たる電装、これが一番厄介なのだろう。


「もし治るなら、出来る限りのことはしたいかも」

 それが今日彼女の出した答えだった。

 その言葉と覚悟を受け止めた宗則も「今後も何かあったら遠慮なく」と言って花崗さんとLINE交換していた。


 その様子を微笑んで見つめる私は、宗則がことバイクに関しては協力を惜しまない人間だってのはもう何年も前から知っている。

 こんなにいい奴なのに、私の知る限り学生時代にちょっとだけ付き合っていた彼女がいただけで他に浮いた話はない。顔だって(ちょっと、……いやかなり、濃いだけで)悪くはない、どちらかというとハンサムな筈。

 そんな宗則がずっとフリー。世の女性は本当に男を見る目がない、私も含めて。


 ランチタイムが落ち着いた後の会合だったけど、彼女の答えが出る頃には、外はもう夕暮れ時になっていた。

 宗則と花崗さんに私特製のハンバーガーとキンキンに冷えたコーラを出す。

「え、キョウさん頼んでないですよこれ?」

「私からの奢りです。今日は洋子がいないから美味しい珈琲は出せないけど」


―K36―

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