Colors of Biker 〜永遠〜

――常連の花崗みかげさん(初見では読めない人も多い変わった名前の彼女。以前、ご両親が鉱物好きで石の名前が由来だと聞いたことがある)、彼女が車や電車で来るようになって数週間。

 落ち込んでいる様子の彼女がやっと話してくれたのは愛車の乗り換えに関する話題だった。修理に掛かる費用コスト効果愛着、それらを天秤に掛けなければならない時がいつか訪れる。

 残念ながら、バイクにも私達にも永遠は無いんだ。


「その宗則さんって?」

「元々学生の頃からバイク馬鹿だったんだけど、今はバイク関係のフリーライターやってて。何でも知ってるというか。ただねー、ちょい問題があって。女性とのコミュニケーションが苦手なんですよ。と言ってもさすがに人見知り程度ですけど」

「もし良ければ相談に乗って欲しいかもですね、あ、でも無理ない範囲で」


 そんな話をしていると、外で「ヒューン」とカムギアトレーンの音がした。程なくして入り口で消毒した手の平を乾かす為にひらひらと振りながら、背丈の低い白バイ隊員が現れた。

「あぁ。いらっしゃい」

「いやいや、お姉さんもっと愛想良くいきましょうよ?」

「え、何で白バイの人が⁉︎」

「あー、そういえばまだ奇跡的に会った事無かったでしたっけ? うち警察官立寄所なんですよ(笑) こいつはトワ、勤務中に堂々とサボりにくる不良警官」

「ちょっ! 健康優良白バイ隊員のトワです!」

「ふふっ、初めまして。久米木くめぎみかげです。今日は車ですけど、私も一応バイク乗ってるんですよ」

「あっと、安藤永遠とわです」踵を鳴らして敬礼のポーズをとるトワ。

「なによかしこまって。てかアンタ名字あったんだ」

「ありますって! 漫画じゃないんですから。それにちゃんとしてる人にはちゃんと返すもんです」

 まるで私がちゃんとしていない様な言われっぷりだけど、心当たりもなくは無い。無言でトワにお冷やを出す。


 トワもカウンターに座り、みんなで旧車談義で盛り上がる。こいつもVFRには何か思い入れがあるとかで、頑なに新型の白バイに乗り換えないでいる。彼女と同じ苦労をている筈だ。花崗さんともすぐに打ち解けた。

 宗則もコイツくらい気さくだといいのにね。


 そして話と調理の合間に宗則に連絡をしてみると、意外にも次の休みの時に店に顔を出してくれる事になった。

 花崗さんの予定も問題なさそうですんなりと決まった。


「ごめんなさい、なんか宗則の都合に合わさせちゃったみたいになって。お仕事とか大丈夫でした?」

「私専業主婦なんで!」と軽く肩をすくめる彼女。

「えー! お若いからてっきり独身なんだと思ってました」

 私の中にバイク乗りはどうせみんな独身だろうって先入観がなかったとは言い切れない。そうして面食らってる私に彼女が追い討ちをかける。

「えっと、申し訳ないんですけど、多分キョウさんより私の方が年上だと思います。因みに来年長女が中学生になります……」

「「えぇーっ!」」私だけじゃなく、洋子も驚きを隠さない。

「お姉さんもしかしてバイク乗りはみんな独身! とか思ってたんじゃないんですか?」

「そんなん思ってる訳ないでしょ! 洋子だって結婚してるし、あと……ほら、孝子の幼馴染の子もとっとと結婚したし。それに、まぁ、……確かに私の周りの男連中は独身多いけど。それにしたってアンタにだけは言われたく無いね」

 孝子はいうまでも無いが、宗則もダイサンも、直接連絡を取っている訳では無いが、洋子の旦那経由で聞く未だバイクを降りていない後輩たちにしたって結婚したといった話が出てきた事はない。そう、私の周りは圧倒的に独身貴族。


「あのー、大変申し上げ難い空気になっちゃってますが、俺も既婚者ですよ……」

「「えぇーっ!」」私だけじゃなく、洋子も声を上げた。


―K36―

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