Colors of Biker 〜終活〜

――数少ない女性客の内の一人、花崗みかげさんが長年乗ってきた愛車を手放すと言う。


 いまだに彼女のよりも古いバイクやつに乗っている私が言うのもなんだけど、彼女のバイクは相当な旧車だ。

 私のニンジャや、かの有名なZⅡのように人気のあるバイク、あとモンキーとかならばいつまでも長く乗っていられるのだけれど、残念な事に全てのバイクがそうとは限らない。

 ニンジャには同系列最高峰のエンジンへ載せ換える為のパーツまで出ている。しかしそこまで人気車種でもない限り、次々と純正パーツが廃盤になっていくのが現実。

 リプロって言葉が存在しないバイクの方が多いのが当たり前。そのリプロだっていつ無くなるかはメーカーよりも当てにならない。そう、甘んじてはいけないのだ。

 勿論どんな車種だって、手段が無い訳では無い。ただ名だたる旧車達と比べるとハードルの高さが跳ね上がるのだ。


「ハーネスですか」

「そうなんです。他の電装品も何年か前に無くなってたみたいで。今回の不具合で調べてみたら発覚した感じで」


 彼女が初めてのバイクを購入したのはもう十年以上前に遡る。購入当初から付いていた社外品のグリップヒーターは数年後には使わなくなり、最初のグリップ交換時には取り外したそうだ。

 その時、バイクに乗り始めの彼女には今ほどの専門的知識は無かった。


 最近になり、元々あったバッテリーの充電不足や低速での失火といった症状が顕著になってきて、先日遂にエンジンがかからなくなってしまった。

 怪しい箇所は幾つも見つかったが、一番の原因トリガーはアース不良だった。アース線の内部が途切れてしまっていた。


 簡単に電装品を増やせるので便利な割込み用配線コネクターエレクトロタップというパーツがある。施工に特殊な工具もいらないので、社外品の電装部品にはセットで付いていることも多い。

 しかしこれがなかなかやっかいな代物で、便利ではあるが防水性は皆無。車の車内配線ならまだ良いが、雨にさらされる可能性の高いバイクの配線には向いていない。配線に進入した水は長い時間を掛けて電線を腐食していき、全体を駄目にしていくのだ。

 彼女もエレクトロタップを外した後のリード線にビニールテープを巻いて養生はしていたのだが、エンジンの熱にさらされるとビニールテープの糊は溶け出してしまい、リード線の皮膜につけられた小さな傷はいずれ露出する。その僅かな傷口に雨水が触れると毛細管現象によって配線全体に浸透、むしばんでいく。

 そして、残念ながら電気系統に詳しいバイク屋は少ない。メイン配線ハーネスが交換部品として入手できないとなるとお手上げだと言われたそうだ。

 バイク屋とも相談の上、長く乗り続けていく為に新しい年式の車両への乗り換えを検討している。


「洋子さんのカフェレーサーも同じ頃でしたっけ?」

「兄弟車ですよね、少し後かな。今はモンスターがメインだからまだってますけど、メインで乗ってるとやっぱり消耗しへっちゃいますよね」

バイク屋主治医さんもメインハーネスだけなら直せなくも無いけどどのくらいかかるかは答えられないって。その他にもこれからどんどん色んな症状が出てくるのは目に見えてるし……」


 看護師をやっている彼女らしい見解だ。いつも何処かを新品にして直すと他の部位にまた不具合が出てくると言っていた。私はその度に「アタシのはもうサイボーグだから大丈夫」と笑って話していたっけ。

 皮肉にもそんな彼女の愛車の方が先に逝ってしまうのは本当に残念だ。


「ねえキョウ、宗則さんなら何とか出来るんじゃない?」

「あー、うー、ん。まぁ」

「誰ですか?」

お店ここにはあんまり顔出さないけど、隠れキャラ的な。アタシらの大学時代のダチでお金は請求しないけど、バイクのブラックジャック的な……」


―K36―

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