ラノベ旅2の下
隣県なのに〝群馬よりも遠い場所〟浜松を目指して早朝に出発。
今回、ソロツーの目的が『安いうどんを食べに行く』なので下道ライド。
半熟だけど社会人になって、ロングというとすぐに
国道一号線に入り、兎に角連続して訪れるバイパスをひた走るが、一見便利に感じるバイパス上には実はガソリンスタンドと言うものがない。なので常に燃料計と睨めっこ。
さらに片側一車線のバイパス道路には路肩らしい路肩がない。渋滞に嵌るとすり抜けもままならなくなり、今度は水温計と睨めっこ。
頭でわかっていても何の解決にもならないのが〝静岡県横に長い問題〟だぞと、箱根を
すっかり日も昇り日陰のないバイパス上の私は、走りながら革ジャンのチャックを全開にする。続けて袖口のチャックも全開にし、右腕と左腕とを交互に水平にしながら風を取り込み、少しでも汗を乾かそうと無駄な努力をする。そんな
バイパスに次ぐバイパスを走り続け休憩のタイミングも完全に逃してしまった。自宅を出てから既に四時間が経過し、私もニンジャもそろそろ限界が近付いている。
こんな時、バイク乗りの精神は
誰よりも高い山に登った後は、誰よりも速く。その次は誰よりも過酷に。
最高速を求め、一日に何処まで遠くへ行けるかに挑戦し、次は下道でと条件を追加する。登らない人々や乗らない人々からは馬鹿な行為だと揶揄される。馬鹿でも阿呆でもいい、周りからどう見られていたって私たちはこの行為に絶対的な決意を持って臨んでいる。それは生きて帰ること。バイク乗り的には「死なないように」程度の方が近いかも知れない。
結果しか見ていない人々の意見は、
しかしノンストップランを決意して数十分後、新たな問題が発生した。
連続で走り続けることでサイレンサーの
目的地には最終的に国道一号線から右折してお店を目指す筈なんだけど、いつまで経ってもその合図が発せられない。何か案内音声が聞こえたので右折レーンに入って信号待ちしていると「右車線を通行してください」ときたもんだ。
そこから先は右折レーンが見えてくる度にアクセルを戻してクラッチを切ってナビに集中し、最終的には「本当にこの道しかなかったの?」とナビに問い正したくなるような道順で目的地に到着した。
そうして無事(?)目的のうどん屋さんに着いた。片道五時間弱のツーリングが程よい空腹感を与えてくれている。
はやる気持ちを抑えつつ、チェーン店然としていない、神奈川で例えるなら工場併設の焼売販売店のような、そんなお店の外観をバイクと一緒のフレーム内に収めて写真を撮ってから入店した。
ツーリングで普段から写真を撮る癖がないので、食後の満たされた気持ちだと間違いなくそのまま帰ってしまいそうだったから。
早朝六時から開いているお店に、着いたのは十時過ぎ。
朝食時間を過ぎて昼食には早すぎる時間だ。我ながらナイス。
店内は空いていて、トレーに箸とお茶と天ぷら用の小皿を乗せてレールの上に置く。
最近ネット動画で「イギリスに日本のうどんチェーン店が出来て安いと評判なので行ってみました」ってのを見た。動画では天ぷらを盛り沢山取った上にビールも頼んでトッピング多めのうどんをオーダーして「安くなかったです」と締めくくっていた。ここ一番って時にはカレー店でも同じ現象が起きる。
私はそうならないように天ぷら一つだけと、ネット小説で主人公の女の子が頼んだのと同じ生海苔入りうどんをオーダー。
これでお会計は、ほぼワンコイン。
百円で追加できる食後のコーヒーに後ろ髪を引かれたが、お財布にストイックを誓って来ているので我慢。
味は期待通り、生海苔の入ったうどんも初めて。
コスパって言葉は少し無粋な気がして使いたくないけど、やっぱりこのお値段でこの美味ってのは驚きだ。学生時代、こんなお店が近所に欲しかった。
学生時代は節約してパスタばかり食べていた印象だ。
そんなことを考えていると、懐かしさも沸いてきてお土産にと生パスタを買って帰ることにした。
一人前が一袋に入って百円の生パスタを手に取り、裏面の保存方法に目を通すと『常温にて保存』とある。この暑さでバイクのタンデム席に縛って帰って「果たして常温とは?」って感じだけど、ラジエターファンが送風してくれるエンジンの温風が届くのは運転席側だけだし、まぁ大丈夫でしょ。
お土産のお会計を済まして外に出ると真っ青な空が目に飛び込んで来る。立派な製麺工場が目の前に立っているけど、周囲には他に高い建造物はない。
この気温の中、五時間、いや帰りはもっと込むだろうから六時間か七時間か。
久しぶりに長距離を走った感じがする。勿論、ユキなんかに言わせると全然ミドルツーリングの域なんだろうけど。それでも目的地があって走るのはやはり達成感がある。
うんと手を拡げて青空を扇ぐ。
凝り固まった身体をほぐすようにゆっくりと伸びをして息を吸い込んだ。
温度はぬるま湯くらいあるけど、神奈川に比べると全然きれいな空気。
自分からは汗と牛革の臭い、バイクからはガソリンとカーボンの臭いがした。
喫煙所で一服を済まし、ライダースに袖を通す。
「さて、帰りますか」
聖地巡礼、こういう旅もいいね。
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