Colors of Biker 〜ドラッグレース2〜
――ダイサンと孝子の詰まらない言い争いがエスカレートして深夜の工業団地でゼロヨン対決をすることに。
私は審判兼撮影係、つまり見学。
24時間営業のファミレスに集合時間の30分くらい前に来てゆっくりとコーヒータイム。
最近
ライダーズカフェをやっている私が言うのは問題あるけどさ。
そして集合時間のきっかり15分前。
トワのファイヤーブレードの音が聞こえてきた。程なくして店内入り口にトワの姿が見えたので手を振る。
「さすが腐ってても警察官。時間厳守だね」
「ちょっとキョウさん、言い方」
「嘘はつかない主義なの。ごめんね」
実際にトワはその日の気分で違反切符も切ったり切らなかったりと常識的に見ると腐っちゃいるが、こいつはこいつなりの正義感で動いている。悪意の有無や守るべき善良な市民へどのくらいの迷惑がかかるかをいつも気にしている。
私はそんなトワが正直嫌いじゃない。点数やノルマの為の取り締まりしかできない連中なんかより余程好感が持てる。
「実際、年式的にはアンタのが一番なんじゃない?」
チラっと時計を見る。トワと駄弁り始めて既に20分が経過した。孝子が時間にルーズなのは知ってるけど、ダイサンは割と約束の時間は守るタイプの筈なんだけど。
まだこのくらいの遅刻なら変な胸騒ぎとかは起きなかった。だけど流石にそろそろ30分が経過しようという頃にはトワとの会話もしっかりと頭に入ってこなくなっていた。
「キョウさん、お姉さん!」
「あ。ごめん。何だっけ?」
「今の音、ダイサンさんじゃないですか?」
トワに言われて初めて気付いたけど、確かにそんな
「ガガッ、ガリッ」
トワと話して、とりあえずお会計を済ませてファミレスの駐車場に向かう。
「悪りぃ、思いの
駐車場にはウィリーバーをつけたVマックスの姿とダイサン。さては合コンなんかじゃなくって、これ手配してたから予定伸ばしたなコイツ。
「バカアホ! 遅れるんなら連絡しろこのデブ!」ホッとした私は思わず孝子と対して変わらないような悪態をつく。
「女王様はやっぱり遅刻かよ?」
「安心して。あいつは女王様に成る前からこうだから」
孝子にはLINEしといて、現地に向かう。
「つか
「一応大通りは避けたぜ。どーよ? 孝子来る前にとりあえず軽くやってみねー?」
トワのファイヤーブレードとダイサンのVマックス、そして私のニンジャ。孝子の既読もつかないし、暇潰しに遊びの範疇。この程度ならやってみてもいいかな。
ダイサンのノリに私もトワも笑顔で答える。
「よく考えたら、アタシも走ったらスターターどーすんのよ?」
「そういうことも踏まえてちゃーんと手配済よ」と言ったダイサンがハンドルを切ってヘッドライトを歩道の方に向ける。
道路脇の自販機の前にしゃがんでいた人影が掲げた右手で目の辺りを覆い、眩しそうな仕草で立ち上がる。
ジュース片手にゆっくりとこちらに歩いて来るのはなんと光ちゃん。やさぐれた様子からダイサンがタンデムで無理矢理連れてきたのが伺える。
「あー、やっと来た。マジダイサンさんぶっ殺す……」
一度バイクをゆっくりと押して歩き、トリップメーターで大体の距離を決めた後、三台をスタートラインに並べる。
「イキマスヨー、ほいっ!」
三台が並んでそれぞれライダーが跨ったタイミングで光ちゃんが持っていた空き缶を勢いよく夜空に放り投げた。
放物線の頂点から下降していく空き缶に三人共全神経を集中する。
「コーン」
空き缶の着地音と共にみんな一斉にクラッチをミートする。
中でもダイサンのVマックスが絶妙のタイミングで飛び出す。
フロントは浮きっぱなし、ウィリーバーがしっかりと仕事をこなしている。
ダイサンから遅れることコンマ5秒とかそんな感覚だけど、トワのブレードと私のニンジャがほぼ互角のスタート。
だけどフロントを盛大に浮かせたブレードのアクセルを若干多めに戻したトワがやや遅れた。
この時点でもうダイサンには追いつけないくらいの差がついている。
そしてその差は開く一方で、ダイサンの圧勝。
「速えーっ! あんなんニンジャで追いつけるかっつーのっ」遊びとはいえ悔しい。
ちなみにゴール一〇〇メートル手前でトワにも抜かれたんだけどね。こちらは年式を言い訳に出来るからまだ私の
しかしVマックスとニンジャではせいぜい一年くらいの差。いかにダイサンが情熱を懸けているかが嫌でも伝わってくる。
みんなでスタートラインに戻って少し震える手でタバコに火を点ける。
気持ちが高揚しているのがわかる。
トワもダイサンもいつもより口数が多い。
ほんの十五秒以下のたった四〇〇メートルの全開走行。
「ファアアーッ……」
瞼を閉じると美しいインラインフォーの咆哮が聴こえてくる気がした。
―K35―
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