Colors of Biker ~ドラッグレース~

――バイク乗りは幾つになってもガキだ。

 勿論私もそうありたいけど、今回は不参加を決め込んだ。

 流石に私のニンジャじゃ敵わない。


「んな古臭い国産にほん車なんてぶっちぎりだって」今日も相変わらずのイタリアかぶれ女。

「ゼロヨンで俺のVマックスがイタ車なんかに負けるかっての。大体全開で走ったら壊れんじゃねーの?」恐らく直線だけは身内最速、番長の買い言葉。

「あんたイタ車が壊れやすいとかいつの話よ? 今時のイタ車は後付けの日本製ウインカーぐらいしか故障しないって」


 普段特殊マニアックな水商売を営んでいる孝子のお客さんは癖の強い人が多いと聞く。最初の頃はストーカー被害に悩まされたこともあった。今ではそうなりそうなお客さんは事前に何となくわかるんだとか。その上で上手く調整(教?)していけるようになったと言ってはいるが、それでも日々抱える精神的負担ストレスは同じ接客業でも私なんかの比じゃないだろう。

 だからなのかは知らないけど、ダイサンみたいに心を許している相手には口数も多くなるし、会う度いつもバカみたいに張りじゃれ合ってる。


「キョウ、あんたも参加しやんなよ? ニンジャだってそこそこいじってんじゃん? ダイサンこいつのロートルにゃ勝てるでしょ。一緒に引導渡してやるわよ」

「せっかくだけど私はパス。ゼロヨンじゃどうやったってダイサンのバイクには敵わないよ。それにこれは言いたくないけど初年度だとニンジャの方がロートルだから」

 つうか、こいつらは何処で勝負するつもりなんだ? 嫌な予感しかしない。


「ヒューン」

 モーターの様なエンジン音と共にお客さんだ。予感的中。

 もう〝警察官立寄所〟って店の扉にシール貼っとこうかしら。

「いらっしゃーい」

「お、孝子さんにダイサンさんも」

「白々しい。表のバイク見りゃわかんじゃんよ」

「孝子さん相変わらず手厳しいッスね」

「お願い、そっちじゃなくてカウンターにして」

「そういやさ、近場でどっかドラッグレース出来そうな穴場知らない? アンタ詳しいでしょ?」


 結局、私のささやかな抵抗も虚しくトワも加わってみんなでドラッグレースをする流れになってしまった。

 もう腹決めて私もスターター兼撮影要員として参加に。

 んでトワいるけど、こいつは署内でも厄介者ポジションだから捕まらないって補償は無いのよね。しゃーない、切り替えて行こ。楽しもう。


「ちょっと、合コンが立て込んでるから今週と来週は無理だな」とスマホを見ながらダイサン。こいつの合コンにかける情熱は一体何処からくるのか。

「それ言ったら平日んがいいんだけどさー。どうせ深夜よね? 日曜の夜だとありがたいね。トワは?」

「僕はいつでもいいですよ」

「アタシは合わせるよ。どうせ審判、ってか見てるだけだし」

「じゃ三週間後の日曜深夜は? んでさっきトワが行ってた工業団地近くのファミレス集合で」


 と、今日は妙に積極的にまとめる孝子だった。

 まぁ孝子の勝負好きは学生の頃から。今更驚きもしない。

 これはもう治らない病気の様なものなんだろう。


―K35―

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