目覚めれば、光
——「ブーン……ブーン……ブーン……ブーン」どこからともなくスマホのバイブ音が聞こえる。
「あれぇ? スマホどこっ!?」
部屋の片付けも佳境に入って玄関は明日出すゴミ袋で一杯。しかもバイブ音が聞こえてくるのはその付近。嫌な予感。まさか私捨てちゃった!?
慌てて二〜三個のゴミ袋をどかしてみるとゴミ袋の下からスマホが出てきた。
「あっぶな。……ハイもしもし?
父さん? 明日じゃなかったっけ?
へ? 早う着いた? ちょお、いい歳しち
え? ごめん聞こえん。後ろすっごいしゃあしいんやけど。
うん、前話したバイト先ん? 黒いニンジャでそんパッチなら
えぇっ!? 事故っ!?」
その昔、ホントにその昔。父がツーリング先で出会って印象的だったバイク乗りの女性(父は女の子と言っていました)がいたそうです。
大学入学の為に上京してきた私は、バイク乗りの女性限定という条件でバイト募集していたお店にダメもとで面接に行ってみました。面接の時に私の大学が店長の母校というミラクルもあって、当時スクーターしか乗っていなかったにも
そして働き始めてから、暫く経ってから分かったことなんですけど、なんとそのバイト先の
小さい頃から見慣れていた父の
何年も前に旅先で出会った人の娘を知らない内に雇ってる偶然の方がレアだと思うけど。
父からの電話はそのキョウさんが事故ったという連絡。
今日つい先刻、予定より早く神奈川入りしてきた父が西湘バイパス上り車線を茅ヶ崎方面に向かって走っている時、キョウさんが後ろから結構な速度差で抜いていったそうです。
その直後、ご老人が運転する逆走車がインターから入ってきていて、正面衝突してしまったと聞かされました。
まだ現場にいて、救急車の到着を待っているという父からの連絡は騒音だらけで、それが冗談なんかじゃ無いんだってわかって……。
急に貧血の予兆のように景色が回って見え始め、膝から崩れるように玄関先のゴミ袋の山の上にスマホを握りしめたまま横になりました。
「うちもすぐに支度するけん病院わかったら教えて」
父にそう伝えてそのまま目を瞑る私。
ご両親って離婚してるんだっけ? お父さんについてったんだよね、確か。えっと単身赴任? 洋子さん連絡先知らないかな? あれ、でも何て説明すれば……色んな考えが次々と浮かんできて、頭の中で渦を巻いていく。段々と大きく、波紋のように。
「ブーン……ブーン……ブーン……ブーン」
「ブーン……ブーン……ブーン……ブーン」
「ハイもしもし! 長岡です!
あ、父さん? ちょお今何時? なんですぐ電話してくれんやったと?
うん、うん、わかった。
行ったことはなかばってん多分わかるて思う」
父からの電話で起こされた。すっかり玄関先で寝落ちしてたみたいで節々が痛い。
父は私が来てもできることは何も無いからと、搬送後の緊急手術が終わってから電話をくれた。寝違えてあちこち痛いけど、頭はすっきりしてたから、そこはすぐに納得できた。
キョウさんの命に別状はなくて、重体ではあるけど術後の容体は安定しているとのこと。まだ全身麻酔が醒めていなくて意識は無いので、しっかりと準備をして父から聞いた搬送先の大学病院に向かうことにした。
「父さんっ!」
病院の待合室で久しぶりの父に会い、詳しい状況を聞き、家族ではないけど従業員代表ということで医師から一通り説明を受けた。
点滴や色んな機械に繋がった状態のキョウさんは麻酔は切れてる筈なんだけど、眠ってるみたいだった。
身体中数箇所の骨折、中でも一番酷いのは開放骨折をしていたという左脚だそうで、元通り歩けるようになるには相当な時間とリハビリが必要との事。
「福、原……さん?」
突然、小さな声でキョウさんが話しかけてくる。
「……ヒカルですよ、キョウさん」
「ごめん、光ちゃん。夢、見てたみたい」
「夢じゃないですよ」
ゆっくりと瞼を閉じてまたすぐに、キョウさんは眠ってしまった。
神様、キョウさんまたバイク乗れるよね?
―H27―
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