ゼット神
日曜日の早朝。
今日のシフトは遅番なので、珍しく休みだった孝子とゆず季ちゃんと箱根で朝練。
まぁ私がついていける訳もなく、ほとんどソロで走っている感じだ。
いつも通り椿ラインを2〜3本往復し、伊豆スカイラインに移動。本数は決めずに小一時間遊んでからバイカーズカフェでゆっくり駄弁る。
普通のカフェと違い、ネズミーランドのように出入り自由なので、今日は自分達の愛車の傍らでコーヒータイム。
孝子やゆず季ちゃんにライディングの初歩的なアドバイスをして貰いながら、二人は二人でサスの挙動なんかを話し合いながらサスペンションのセッティングを変更したりしている。
そうすると、これまたいつものことなんだけど、ツーリングで立ち寄ったおじさんライダー達に話しかけられた。別に向こうだってナンパ目的なんかではないのはわかる。わかるんだけど、やはりあまりにも多いと辟易する訳で。それでもまだ話が合いそうならいい。おじさん達は俗に言う旧車グループ。レーシングスーツ姿の二人にライパンの私とは話が合わない確率が高いとは思わないのかな?
もちろん、私のGPZ900Rや孝子のドカティ748Rだって最新のバイクと比べるなら既に旧車扱いされてしまってもおかしくはないし、別に世間話で済むならそれでいい。私が面倒臭いことにならないか懸念しているのは、結局自分たちの古いオートバイのことを自慢したいだけの人だったら嫌だなって所。
そうは言ってもバイク乗り、自分のバイクが最高なのは当然、それはいいんだ。
私たちのバイクを新しくて面白味がないとか、誰が乗っても速く走れるだのと扱き下ろしてくるタイプが苦手。自分が上だと思いたいから周りを下に見たいんだろうね。
新しいバイクの中でも外車に乗ってるなら国産車を、国産車同士だったらカワサキ乗りがホンダ乗りを、同じカワサキならば古ければ古いほど偉いって、そんな考え方の人たちが稀にいる。なのでしなくてもいい警戒をしちゃうんだよね。
そして嫌な予感は当るみたいで、途中ほとんど受け流してたからどういう流れで辿り着いたのか思い出せないけど。結果、新しめのホンダ車ってことで運悪くゆず季ちゃんが自慢話のターゲットにされてしまった。単純に私のはニンジャ(自分で言うのもなんだが、ニンジャ乗りはやっかいなのが多い)だし、孝子は見た目がいかにもヤバそうだしってだけかも知れないが。
バイクの性能で速く走れているだけだとか、エンジンの鼓動が聞こえないだとか、おじさんが自分のバイクを買ったときは30万だったのに今は200万以上して、そのバイクより高いだとか。
横で聞き流してるだけの私ですら機嫌が悪くなるのに、ゆず季ちゃんはにこにこと聞いてあげている。
私がメインで話しかけられてたらきっと態度に出していただろう。バイト先にお客として来ないとも限らないので、ゆず季ちゃんの心の広さを見習いたい。
しかし、一方的に話して満足したおじさん達が休憩を終えて再出発するタイミングにゆず季ちゃんが言い放った一言で、彼女が静かに怒るタイプだと知った。
「おじさんのゼットって二百万の価値も無いんだ? 私のCBR中古で50万だったけど、もし30年後に二百万になってたって迷わず買っちゃうな。だって好きだもん」そう言ってニコニコ顔でバイバイと、いや、あっちいけと手を振った。
おじさんは上手く言い返す言葉が浮かばず悔しそうに真っ赤な顔に、私はスカッと顔に。孝子は始終興味なし顔だ。
「あはは、いい顔してたねオヤジ! それにしてもやっぱゆず季ちゃんのCBR愛は本物だね。感動したよ」
「いやいやいや、二百万も出すんなら最新のドゥカティでも買いますって! CBRは安くて早いからいいんですよー」といつものテヘペロ顔をするゆず季ちゃん。
うん、やはり孝子の幼馴染みだ。
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