Good manners make good rider

 通勤時、いつも大体同じ辺りの道のりで会うバイク便ライダーがいる。

 ある時は私が追いつく形、またある時は気付くと私の後ろにいたり。

 ほぼ毎朝のことなのでお互いに認識はしている筈だ。


 話をしたことがあるわけでもなく、ハンドサインや会釈すらしたことはない。なので本当のところはバイク便かどうかも私の想像でしかない。


 彼の愛機はキャンディーサファイアブルーのZRX400。ややアップされた社外ハンドルに絞りを入れて装着。この絞り具合も下品にならない範囲で最大限に攻めていて、すり抜け時の安全マージンの増加に貢献している。そしてタンデム席には真っ白な四角いボックスが鎮座、良くスクーターに付けられる丸みを帯びた黒い樹脂製のものではない。

 恰好も普段は反射素材が要所に縫い込まれた機能性重視のナイロンファブリックウェア。雨の日はグローブに透湿防水のバイク用、ブーツに防水性を重視した建築現場作業用をチョイスしている。ヘルメットはジェットヘルメットで排気ガス対策のフェイスマスク兼ネックウォーマーを装備。これでバイク便じゃなかったら嘘でしょ。


 ほんの数分のことなのだが、毎朝彼と並んで走るのが大変心地よい。

 通勤時の彼のすり抜けやバイク同士の車間の取り方、加減速のタイミング等が上品なのだ。

 彼は原則的にすり抜けは車の停車時しか行わず、車が動いているときは車にすり抜けの意思がないと伝わる位置と車間をキープし、後ろから停車時以外もすり抜けを敢行したいバイクが来たときにはスマートに譲る。

 しかしそんな彼も只々上品なだけではない。混んでいない状態で道は二車線、速度は十分に保っているにも関わらず、後方から必要のない追い抜きなどを仕掛けてくるような輩が来たときには、まるでヘルメットの後ろに目でもついているかのように絶妙なタイミングでスムーズな加速をして、抜かれる前に出鼻を挫く。

 牙はあるがむやみに噛みつかないスタイル。


 もちろん、彼も仕事の時は違った運転をしているかもしれない。急ぎの仕事の時などは少しアクティブなすり抜けもするだろう。だがプロとしての技術と誇りを感じるその走りはたとえ急いでいたとしても、同じ道路を走る者には伝わるはずだ。


 忙しい朝の僅かなひとときランデブー。少なくとも私には伝わっている。

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