日伊戦争勃発

 話には聞いていたけど、路面悪いし道狭いな。それが椿ラインの印象だ。だけど、よくよく考えたらどこもこんなもんか。


「狭いのとブラインド多いから、抜きは無しで先行と後追いとを入れ替えながら何本か走る感じで」CBに乗ってるコイツが言った。あれ? そういや、

「ねぇ? 名前なんだっけ?」

「ウサギとカメじゃなかったかなと。バリ伝で秀吉と……」

「いや、アンタの名前だよ。聞いてなかったなって。つか何の話よ?」

「久地宗則。一年生。先輩は?」

「いや、私も一年だって! まぁよく上に見られるから慣れてっけど。孝子、岡瀬孝子」


――昨日、大学の駐輪場。

 いやー、コレすごいね。言っちゃえば旧車なんだけど、フォーク変わってるし、つかフォークだけじゃなくて三又から変わってるよね。スイングアームもこれ他車種用っぽい、前後のホイール形違うし。

 そんなことを考えながら、停められていたCB1100Fをぐるぐると上から下から凝視していた。

 私は基本的にはイタ車しか興味ないけど、たまに峠で見る頑張ってるビッグネイキッドについては、その気概が好きだ。そしてこの車両、セパハンがあてがわれているのが気に入った。全体的に傷や凹みが目立つけど、リアサスもオーリンズでフルアジャスト仕様タブル、フロントもパッと見でイニシャルはいじれるようになっているのまではわかる。……ま、こんだけ色々やらなきゃならないってのがあるから国産は辛いとこだよね。


「いったいどんなやつが乗ってんだろ?」

「こんなやつですけど……」

「おわっ! びっくりした!」

「いや、申し訳ないス。真剣に見てるから話しかけるタイミング無くて……」

「あー、いや、こっちこそ。私もバイク乗ってるんだよ…って、見りゃわかるか。結構いろいろやってんねコレ」

「あー、先輩のお下がりなんで。サークルで昔草レースやってたとかで」


 そもそもバイクサークルなんてあるんだな、うちの大学。

 お下がりとは言ってたけど、タイヤも変えてあるし端までキッチリと使われている。どろどろに溶けてる訳でもないし丁寧に走り込んでいる証拠だ。


 お互いに会話慣れしていないタイプなのかすぐに会話は詰まり、今度一緒に走りに行こうかっていうお決まりの社交辞令でその日は解散したが、考えていることは同じだったみたいで……。


 翌日。講義が終わったら走りにでも行くかと、革ツナギを着込んで駐輪場に登場した私は、同じくツナギを着て校舎に向かおうとしているコイツと目が合った。

「いや、その恰好で授業でるの?」私もツナギに袖切りトレーナーにメットには尻尾までつけての完全形態だったが、こんなのは言ったモン勝ちだ。


 結局授業はサボタージュしてコイツ、久地宗則に先導してもらって箱根に向かった


 何本か前後を入れ替えて走ったが、久地の走りは無駄が無い教科書通りのきれいなフォームだった。ついていけない程ではないけど、これは抜き去るのも厳しい。結局、黙々と数本走り、お互いに集中力が切れる頃を見計らって、久地が休憩ポイントに入った。そのタイミングもまた絶妙で。

 そして、この日私は膝も擦らずに走るオンボロの旧車を引き離すことが出来ずに終わってしまう。


 もしかしたら久地の走りは私と同等なのかもしれない。

 いや、久地の走りにはまだ余裕が感じられたかも。


―T19―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る