「この掌の刃は」part.11
圧縮空気の破裂による攻撃は、乱戦の時に真価を発揮する。逆を言えば、警戒さえしていれば恐ろしいものではない。
カムイの集中を感じたら、その場から離れる。それだけで容易に回避することができた。
ただし、それは単発の場合に限ったことだ。複数の圧縮空気を時間差で破裂させる等、乱戦に類似する状況を作り出すことは充分に可能だ。避けた先に罠を仕掛けておくことも考えられる。
知っているからこその警戒により、タケキは身動きできずにいた。
「来ないのかね? ならば私からいこうか」
中佐は左目に単眼眼鏡のようなものを取り付けた。カムイを視覚化して映し出す機械だ。
これで刃も盾も、不可視ではなくなった。それはタケキ達の優位性がひとつ失われたと同様の意味を持っている。
リョウビから手渡されている《切り札》を使うには、まだ距離がある。なんとかして近付かねば。
『あの爆弾みたいなの、糸が繋がってたよ。たぶん今のタケキなら切れる』
『そうか』
中佐の宣言通り、タケキの周りで空気が圧縮されていることを感じた。把握できるだけで十五個。
そのどれもに、意思の糸が繋がっていた。それは細く、存在を意識していなければ感じられない程度のものだった。リザの助言に感謝する。
タケキはカムイによる加速をかけ、弾かれたように走り出した。
「そうこなくては!」
両手と、自身の周囲に三本の刃を形成する。計五本の刃は、細い糸を全て断ち切った。
空気を圧縮しつつあったカムイは、意思との繋がりを失い霧散した。そのままの勢いで、中佐に接近する。
左手の刃を手放し、懐の《切り札》を手に取った。有効範囲までもう少しだ。
『タケキ、だめ!』
「ホトミ!」
タケキとリザは同時に、中佐から放たれる攻撃的な意思を感じた。
通信機越しに呼びかける前に、眼前に盾が形成されていた。ホトミも同様のものを感じ取っていたようだ。
盾からは後方にいるホトミに向かって、意思の糸が伸びていた。今まで気付かなかったが、遠隔的にカムイを行使するということは、意思を繋ぐということなのだろう。
次の瞬間、盾には無数の細長いものが突き刺さる。それはカムイで形成された針だった。
高濃度のカムイにより強固になっている盾ですら、攻撃を耐えきったところで崩壊した。
これが中佐の奥の手のようだ。もしかしたら、まだ他にも隠しているのかもしれない。
「意思を読まれるとは厄介なものだな。これで終わらせるつもりだったのだが」
中佐は口の端を吊り上げた。
「男同士の間に入らないでもらおうか」
再びタケキの周囲で空気が圧縮される。それが時間稼ぎなのは明確だった。
糸を断ち切る間に、ホトミに大量の針が向かっていた。先程よりも多く、盾で防ぐには厳しい数だ。
タケキは針から繋がっているであろう糸を探す。数え切れない数の針を全て操作するのは、どう考えても不可能だ。
カミカガリにも類似する特性を持った者がいたが、ここまでの数を操ることはなかった。
『見えたよ。感覚合わせて』
リザと感覚を共有する。おびただしい数の針の中から、一本だけに繋がる太い糸を感じた。そこから枝葉のように、他の針へと糸が分かれていた。
幹にあたる糸を断ち切れば、針は意思との繋がりを失い霧散するということだ。
ホトミの盾には、既に針が突き刺さり始めている。時間がない。
タケキは意思の幹を断ち切ろうと、刃を振り上げた。
『危ない!』
「タケ君!」
ホトミとリザが同時に叫ぶ。
タケキの右側面から、針の群れが迫っていた。操ることができる群れは、ひとつではなかったようだ。中佐の強い意志と、左腕の性能に驚愕する。
気付いたところで、動きを回避に切り替える猶予はなく、そのまま幹を断ち切った。
息を止め、訪れる苦痛に対し覚悟をする。
「ぐぅっ……」
通信機から悲鳴を飲み込んだような、くぐもった声が聞こえる。
タケキを狙った針は多重に形成された盾により、その全てが防がれていた。
「ホトミ!」
振り向いた先には、左半身を血に染めたホトミが立っていた。
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