「この掌の刃は」part.7

 銃弾が弾ける、幾重にも重なった防護柵が吹き飛ぶ。高濃度のカムイを行使するホトミの盾は以前にも増して強固になり、まともな迎撃や妨害は意味を為していなかった。

 終戦後の施策により王都中心部は背の高い建造物が林立している。ビルと呼ばれる建物の各階には多数のモウヤ系企業が事務所を構え、クレイの経済を一変させた。

 そんなビルの群の隙間から、伝統的な石造りの建物が見えてくる。

 旧クレイ王国軍司令部、現在の治安維持局だ。

 数日前までは威圧的であったその威容も、砲撃により半壊し今や見る影もない。


「そろそろ来るぞ」

「うん、任せて」


 ここまで、以前タケキ達を苦しめたクレイ製のカミイケ、つまりオーヴァーを使った兵器からの攻撃はなかった。

 リョウビからの情報によると、一般兵に支給するほど数は多くないらしい。

 数少ないオーヴァーを有効活用するのであれは、肉薄される前に撃ち落とすか、内に引き込んでから磨り潰すかのどちらかが有効的な対処法となる。指揮をしているであろう中佐は、後者を選んだという事だ。実に彼らしい。

 オーヴァーの小銃での射撃は、強度を増した今の盾であれば充分防げる。前回の戦闘経験が役に立ったというわけだ。

 対策さえできてしまえば、あの程度の攻撃は通用しない。


 問題は大型の狙撃銃だ。防ぐには特別な盾を形成する必要がある。狙われる方向がわからないまま、全面に展開するのはホトミの消耗が大きい。

 できれば撃たせたくないというのが本音だ。

 そこで、リョウビの持ってきた機械が活躍することになる。


「リョウビさんの機械、頼りにしてるからな」

「それは光栄。時間は短いですからね」

「構わない。やってくれ」


 タケキからは見えないが、リョウビが操作するのは片手で抱えられる程度の分厚い円盤状の機械だ。その機能は王都に向かう道中に説明を受けている。

 それは、高濃度のカムイが光を屈折させる作用を利用して、一定範囲内を周囲の景色に同化させるらしい。要は透明になるということだ。

 眉唾ではあるのだが、使えるものは遠慮なく使う。


「攻撃、来ないね」


 リザの言葉通り、これまで降り注いでた銃弾の雨が止んだ。本当に透明になったようだ。


「では、こちらも」


 リョウビが再度機械を操作した直後、後方から複数の着弾音が響いた。

 車内の鏡から後方を確認する、タケキ達の乗っているものと同型の四輪車が見えた。

 それどころか、運転するタケキ自身の姿まで見える。

 これも光の屈折を利用しているらしいが、原理はさっぱり理解できなかった。リョウビからはリザの姿が見えるのと同じだと言われ、妙に納得したことを覚えている。

 その間にも、四輪車の幻影に射撃が殺到していた。通常の銃撃に加え、オーヴァーの小銃や大型狙撃銃と思われる着弾音も次々に響く。


「成功ですね」

「とりあえずはな」


 この機械は重量の割には稼働時間が短い。一定時間使うと中が焼き切れてしまい、ごみ同然になる。


「いいよ、もうわかったから」


 タケキの隣に座るホトミの掌には、赤ん坊の拳ほどの大きさをした球体が握られている。これもリョウビの持ち込んだもので、カムイによる探知を強化するものだ。

 探知を特性とする者に比べれば時間がかかるが、カムイを操ることができる者であれば、同様の精度で周囲を確認できるようになる。

 透明化と幻影で作った時間を使い、ホトミは大型狙撃銃の場所を把握した。これだけわかれば、狙撃されたとしても防ぎようはある。


「もうだめです」


 焦げ臭い臭いが後方から漂う。

 後方の幻影に向かった攻撃が一瞬止まり、再びタケキ達に向かい降り注ぎ始めた。

 狙撃もされたが、ホトミが多重の盾を展開し完全に防ぐ。

 目的地はもう目と鼻の先だ。


「突っ込むぞ」


 四輪車はほぼ無傷のまま、治安維持局へ突入を果たした。

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