「私だって」part.11

『リザ、頼む』

『うん』


 リザを構成するカムイがタケキの肩に触れる。薄く広く展開していた意識を切り替える。狙うは北東方向、治安維持局。

 探知に時間がかかると、カムイ検知器に捉えられてしまう危険性が高まる。勾留中に実験したところでは、使える時間は最大二秒。早業勝負だ。

 目標はふたつ。レイジの安否及び居場所、そして十日後――今から数えれば六日後に何があるかという情報だ。


『いくぞ』

『いいよ』


 細く長く意識を伸ばす。意識は王都中心近くに鎮座する旧クレイ軍司令部、現在の治安維持局を捉えた。地上十二階、地下三階の巨大な建物全体を一瞬で見渡し、必要と思われる場所の確認。

 ここまで一秒。

 地上十階、地下二階を詳細に探知する。ここからは人の意思まで探知の対象だ。数十人の意思から目的の情報を探る。

 ここまでの荒業をやってのけられるのは、リザが処理の一部を肩代わりしているからだ。情報の必要性はタケキが判断し、不要情報の遮断をリザが行う。この方法でタケキの負担は激減した。

 二秒経過。


「ふぅ」


 軽く息を吐き出す。練習したとはいえ、かなり負担のかかるカムイ行使だった。カミガカリで探知を担当していた者達の辛さが一部わかった気がする。ただ、怨嗟と敵意をぶつけられ続ける中での探知は、こんなものではなかっただろうとも想像できる。


「どうだった?」

「収穫あったよ。詳しくは帰ってから」

「姉さーん、これ可愛いよー」


 動物を模した砂糖菓子を持ち上げようとしたリザを、タケキは慌てて止めにかかった。


「買い物楽しかったねー」


 帰り道、リザは浮かれて話し続ける。声の大きさはタケキでも調整できるため、ホトミに聞こえる程度にしてある。周りには聞こえていないだろう。リザに合わせてタケキも若干心が弾んでいた。


「いつも、ありがとうね」

「俺にはこれくらいだからな、できること」


 タケキは両手に買い物袋をぶら下げている。家事全般をホトミに頼っているため、本当に荷物持ち程度しかできることがない。


「ホトミ姉さんに頼りすぎだよー、捨てられるよー」


 顔の横で細長い橙色が揺れる。どうしても荷物持ちがしたいと言うリザに持たせた根菜だ。


「大丈夫だよ、捨てないよー」


 ホトミは柔らかく笑う。束の間の平穏は長く続かないからこそ愛おしいのかもしれない。


「ただいまー」

「はい、おかえりなさい」

「俺の家だよ?」


 買い込んだ食材はホトミが冷蔵庫や棚に片付ける。今日はリザも手伝うようだ。


「それで、レイジ君はどうだった?」

「地下二階に軟禁されていたよ」

「軟禁って程度なんだね?」


 肉の包みを冷蔵庫へ入れながら、ホトミは首をかしげた。


「怪我もしていないし、捕らえられているって様子ではなかったよ」

「そっかぁ、裏があるね」


 計七回行われた研究施設襲撃の実行犯がタケキ達なら主犯はレイジだ。更に禁止されているカムイまで持ち出したとなれば、本来であれば軟禁程度では済まないはずだ。


「リザだろうな」

「だよね」

「ん?私?」


 レイジに危害が加えられていることがわかれば、タケキは激昂し暴れるかもしれない。そして、タケキの周りには大量のカムイが拡散せずに存在している。

 カミガカリの脅威はモウヤ共和国軍であれば、知らない者はいない程に有名だ。それが抑止力となり、レイジの待遇に繋がったのだろう。


「十日後の話は? 六日後だけど」

「重要な物が運ばれて来るらしい」


 探知した際、責任者たる中佐は側近共々不在にしていた。タケキ達を解放してすぐに王都を離れたようだ。


「その重要な物を受け取りに行ったらしい」

「あの立場の人でしょ? 普通自分じゃ行かないよね」


 ホトミの疑問通り、責任者がその場を離れるなど通常では考えられない事だ。それだけ重要な物なのだろう。今の治安維持局にはそれを知っている者が残っていないところからも、並々ならぬ事態であることが想像できる。


「で、恐らくその物はカムイに関係がある」

「そうだね。リザちゃんのカムイを探知して目の色が変わったもんね。あいつらは、タケ君の能力だと思ってるけど」


 タケキとホトミは目を見合わせ、頷く。見解は一致した。治安維持局への出頭当日、レイジを救出した上で中佐らの思惑全てを壊す。どんな物なのかはまだわからないが、破壊か奪取することになるだろう。


「建物の見取り図書くよ」

「うん、よろしくね。私はお昼作るね。リザちゃん、お手伝いして」

「おっまかせー」


 方針が決まったことで、必要な準備も定まる。時間はそう多くなく、杜撰は命取りだ。事は念入りに進めなければならない。


「そうそう、タケ君、もうひとつ」

「なんだ?」

「私、リザちゃん見てみたい」


 家事を司る者は、無理難題を提示した。

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