二章 純情の雪女
一話 少女、出会う
前書き
いつも自作をお読みくださりありがとうございます。本日から次章を公開いたします。楽しんでいただければ幸いです。
どうして、誰も見つけてくれないの?
私ここだよ? なんで気づいてくれないの?
通行人の誰とも目が合わない。たまに、私の足元に並べられた花束を見たりするけど、私には気づいてくれない。まるで私が見えてないみたいに。
ううん。違うと思う。
実際見えてないと思う。
生きてる人には。
詳しく覚えてないけど、自分が死んだことはわかる。ここは事故が起きた場所だと思う。誰にも見えないのは私が死んでるから。
でも、なら、どうしたらいいの?
自分が死んだことはなんとなくわかる。だけど、誰も見つけてくれないし、曖昧な気持ちのまま立ってるしかできない。
どうしたらいいんだろう?
何度目になるかわからない。そんなことを考えてた時だった。
「浮かない顔じゃな。どうした?」
よく通る声に顔を上げて、両目を見開く。
(うわぁ、綺麗……なんていうか、現実じゃないみたい)
そこにいたのは青い着物を着た絶世の美女さんだった。テレビとか雑誌で見かけるアイドルとか女優さんじゃ比べ物にならない。綺麗のレベルが違った。綺麗すぎて怖いくらいに。
「どうした。なぜ呆ける?」
尋ねられて、はっとする。
「い、いえ……あのびっくりして。とても、綺麗だったから」
それに、私に気づいてくれたから。
「ほぅ。見る目がある」
美女さんが自慢げに笑った。それから、胸元から白い扇子を取り出して口元にあてる。その動きに合わせて雪と銀を溶かしたみたいな髪が揺れた。その仕草が綺麗すぎて、見ているこっちがどきどきする。
「妾が美しいのは当然だが、気分が良い。困っているなら助けてやらないでもないぞ。魂だけが現世に残り途方に暮れていたのだろう」
「……ッ‼ わかるんですか⁉」
「当たり前じゃ。妾も同類だからのぅ」
良かった。私は思った。どうしようもなかったけどこの人――人って呼ぶには綺麗すぎるし、夢みたいだけど――なら、どうしたらいいか教えてくれるのかも。
「あ、あの……私どうすればいいかわからなくて。なんとなく、自分が死んでしまったことはわかるんです。でも、周りの人には私に姿は見えないし、どうしたらいいのか――」
話してる最中に、優しく包み込まれた。
「――え?」
「違うじゃろぅ。どうしたらよいのか、ではなくまずはどうしたいのかじゃ」
抱き締められた、あとから気づく。はじめて会ったばかりの美人さんに抱き締められて、私は照れた。
「え⁉ あ、あの……ッ‼」
「お主は確かに死んだ。だが、死にたくはなかったろぅ? それに、お主はまだ遅くない。生き返らせることもできる。妾なら」
「……ッ‼」
見上げると、美人さんが微笑んだ。自分が死んでるってことは予想が付いた。だけど、まさか生き返れるなんて思ってなかった。でも、本当かな?
「妾は雪女の
その言葉に、私は嬉しくなった。さっきまで『生き返れるって本当かな』って思ってたけど、不思議と大丈夫な気がしてくる。
だって、そうでしょう?
死にたくなかった。
やり残してることもたくさんあるもん。
だから、私はとっても嬉しかった。
美人さんをまっすぐに見上げた。そんな私を見て、美玲さんは扇子で口元をまた覆い隠した。
「悪いようにはせぬ」
美鈴さんの声はとても優しい。困ってた私を助けてくれるんだから、とっても親切だ。美玲さんのような人――雪女と呼んだほうがいいのかな――に会えて本当に良かった。私はそう思った。前に、お母さんが知らない人を信用したり付いていったら駄目って言ってたけど美鈴さんはきっと大丈夫。私はそう思った。
扇子の下で美玲さんが笑った、ように見えた。
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