第33話 恋する親子たちの恋の追いかけっこ
~SIDE:Daughter~
「―――ごめん、マコ。昨日は折角マコに謝罪の何たるかをいっぱいご教授して貰ったのに……結局ほとんどが無駄になっちゃった」
母さんに許しを請うべく、自称『謝罪のプロ』の親友マコからどうやって人に謝って許して貰えるのかを教えて貰っていた私なんだけど……結局昨日は教えられたことの大半を使えずに―――いいや、
「む、無駄になったって……え、ええっとヒメっち?だ、大丈夫?もしかして、お母さんに話も聞いて貰えなかった……?そ、それとも私の謝罪方法がおかしかったとか……」
「……あ、ううん。大丈夫。そういう事じゃないの。実はね……」
青い顔で心配そうに私に尋ねるマコに、昨日あったことを―――母親としての母さんの想いとか、一人の女性としての母さんの想いとか……6年後なら付き合ってもいいと言われた事とか―――を、かいつまんで話してみる私。
「と言うわけなの。……最初は、謝る気満々だった。謝って謝って謝り抜いて。そんで……最悪でも普通の親子関係に戻れるなら……ううん、どんな形でもいいから……母さんの傍に居られるのなら、それだけで満足なはずだった」
「へぇ……
「……ん。母さんの気持ちを、聞かせて貰えたから。だから私……謝らないって決めたよ」
……そうだ。もしもあの場で謝ってしまったら。私の中の決心が揺らいでしまいそうだったから。自分の恋心を誤魔化してしまう事になりそうだったから……
「母さんに好きって言った事、母さんにキスした事、母さんを押し倒した事……私がやった事を謝っちゃったら……決意が鈍りそうだったもの」
「ほほう?決意とは?」
「うん、決意した。母さんには悪いけど、腹をくくったよ私。……絶対に、母さんを、本当の意味で私の恋人にするんだ」
「おぉー……大きく出たねヒメっち」
自分を奮い立たせるように、お世話になった親友に自分のその決心を打ち明ける私。母さんの気持ちを知った。好きと、言って貰えた。それを聞いたら、黙ってなんかいられない。告白をなかった事になんかできない。もっともっと……わがままになりたい。母さんの、すべてが欲しい……!
孫の顔が見たい?孫を可愛がりたかった?ごめん母さん、諦めて。その分、私が……母さんに一生かけて全力の愛を注ぐから。
「ぶっちゃけさ、母さんは……『この好きは私への同情とかそういうのじゃない』って言ってたけど。でもやっぱり、ほんの少しは同情とか……私への気遣いがあったから『好き』って言ってくれたんだと思う」
「ほうほう?」
母さん優しいから。私が傷つかないようにと色々考えてくれた上で出した返事だったと思う。確かに一人の女性としての想いもあった。けれども昨日は……当然というべきか、母親としての想いの方が強く感じた。
残念だけど、まだまだ私は……母さんの『好き』の全てを貰えていない。
「母さんは……6年後も私が母さんの事を好きでい続けてくれるなら恋人になってあげるって約束してくれた。けどね、私はそれに甘えるつもりはない。……誕生日、そして昨日の出来事があって……ようやく私は、土俵の上に立てたんだ。母さんに私の恋を知ってもらった。ほんの少しだけでも……私を娘としてだけでなく、一人の女として意識して貰えた」
……そう。だからここから、ここからが私の本当の勝負だ。
「6年後には、必ず……お情けとかじゃなくて本当の意味で母さんに私の事を好きになって貰うんだ。母さんを、一人前の素敵な淑女として愛し、愛される。そんな存在になってみせるよ」
これから始まるのは、追いかけっこ。6年かけて……私が母さんを惚れさせたら私の勝ち。6年後も私の想いが一方通行のままだったら……母さんの勝ち。そんな、恋の追いかけっこだ。
「……そっか。それは……うん、とても大変な道だとは思うけど……親友として、応援するよ。力になれることがあれば言ってね。頑張れ、ヒメっち!」
「……ありがと、マコ。早速だけど……私、まずは家事方面で母さんを惚れさせようと思ってるの。手伝って……くれる?」
「応とも、そう言う事なら任せたまえ親友!」
こつん、と拳を合わせて。頼れる愉快な親友と笑い合う私。心強い
実の娘と恋人関係になってしまったという後ろめたさなんか微塵も感じさせないような。こんないい女が自分を好きになってくれたんだって……母さんが誇らしく胸を張れるような。そんな素敵でいい女になってみせるからね……!
~SIDE:Mother~
「……どうしよう」
私、麻生妃香は……大いに悩んでいた。
『20歳まで一切手を出すことなく、私の事を好きで居続けられるかい?そんな条件でヒメが構わないなら……私はヒメを受け入れるよ。喜んで、ヒメと恋人になりましょう』
自分の発する言葉に、その行動に。自分で責任を持てる年齢になるまでは告白を保留する。もしそれまでに私に手を出さないという条件を守れるのであれば、恋人になってあげよう―――それが、昨日ヒメと交わした約束だった。
……正直、ヒメには悪いけど……ヒメは諦めるのでは、と内心思っていた。『……厳しすぎる。無理』と諦めてくれるのではと思っていた。
だけど……
『たった、6年だけで良いの?』
返ってきた返事は、そんな予想を一刀両断する……私への愛の籠った力強い一撃。ヒメ曰く『シミ、皴のある母さんもきっと可愛くてきれいで素敵』だと。『おばあちゃんになってもずっとずっと愛し続ける』だと。
……嘗めてたよ。ここまで、そうここまでヒメが私の事を想っているだなんて……
『覚悟しておいてね母さん。私……今よりももっと良い女になる。寧ろ母さんが6年なんて待てないくらいに……ずっとずっと良い女になるつもり。……母さんの隣で、母さんと肩を並べるに恥じない素敵な女になって…………そして6年後に、今度こそ……母さんを本当の意味で口説き堕とすから!』
おまけに私に対してそんな宣戦布告までしてきたヒメ。今朝も有言実行してきて―――
『……ねえ母さん。母さんは手を出したらダメって言ってたけど…………キスするのは、NG?規約違反?』
『ヒメや?それ、最優先にNGされる行為だとかーちゃん思うんだがね……』
『むぅ……厳しい。手厳しい。……ま、いいや。ならこれで―――んちゅ♡』
『…………ッ!』
キスがダメだと分かるや否や。私に投げキッスをして元気に登校していったヒメ。甲斐甲斐しくいつものように作ってくれた手作りお弁当には、『愛しい母さんへ♡お仕事頑張ってね』とお手紙が添えられてたし。お弁当を開ければハートマークがいつも以上にふんだんに使われてたし。
「……どうしよう」
私にもっと好きになって貰おうと、今まで隠し続けていた想いを隠さずに。一生懸命アピールし始めたヒメ。そんな娘のいじらしさに、愛おしさに……私は……
なあ、ヒメや。お前は多分『母さんは、まだ私の事を娘としてしか見てくれていない』って思ってるだろ?……違う、違うよヒメ。私は、もうとっくに……
「……どうしよう」
ホントにどうすりゃいいんだ私は……頼りにならない部下に相談しても。
『大丈夫!バレなきゃ問題ないですよ!』
と、頼りにならないダメなアドバイスしかくれないし。
今朝は私もついとち狂ってしまって。web質問板に、
『通りすがりの母親ですが、娘の事が気になりすぎて困っています。』
と質問を投げかけてしまったんだが。
『異常です。病院受診をしておいてください。産婦人科じゃないですよ?精神科です』
『レズな上に娘に性的な目で見るとか犯罪では?』
『貴女と娘さんの3サイズどんな感じ?写真うpはよ』
『この質問前にも見たわwww』
『あんた昨日同じような質問してただろ、冷やかしなら帰れ―――』
と、部下以上に役に立たないアドバイスにすらならなくて困ってる。
「…………どうしよう」
本日一体何度目になるのか。私は涙目でため息と一緒に弱音を溢す。なあおいヒメさんよ……今でさえもう堕とされそうなのに、今以上にいい女になるだぁ?
「これ、このままじゃ……私のほうが、6年待てそうにないんだけど……!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます