第27話 持つべきものは優しいダメな類とも
『通りすがりの娘ですが、母さんの事が好きすぎて困っています。』
中学生、女子です。母子家庭で私の事をこれまでずっと一人で支え、育ててくれた実の母親が好きです。単に家族としての好きだけでなく、女として母さんの事が大好きなのです。綺麗でかっこよくて頑張り屋な母さんに恋をしています。多分、これは私の最初で最後の恋だと思います。
年を重ねるごとに母さんの事が好きで好きで溜まらなくなり、ここ最近はついに自分の気持ちを抑えられず嫌がる母さんを無理やり迫り押し倒しキスをして困らせてしまいました。私はどうしたらいいのでしょうか?この恋は諦めるべきでしょうか?母さんに何と謝ればよいのでしょうか?
~回答~
『異常ですね。いい病院を教えてあげましょう。頭の方の病院を(笑)』
『レズな上に実母とかあなたを産んだお母さんがかわいそうです。縁を切ることをお勧めします』
『お母さんと君の3サイズどんな感じ?写真うpよろ』
『創作乙www』
『こんなところでする質問じゃありません。帰れ―――』
「……ハァ」
最悪の誕生日から一夜明け。気分超ブルーな私……麻生姫香はスマホをポチポチ操作して……そして朝から止まらない溜息を盛大に吐く。
広大なネットの世界だ。誰か一人くらいは役に立つ回答をしてくれるかもしれないと仄かに期待して勇気出して質問投稿してみたものの……ダメだこれ。ちっとも役に立ちやしない。
「……まあ、こんな奇特な悩み……簡単に解決できるとは流石に私も思ってはなかったけどね」
自嘲気味に笑い、スマホをポケットにしまい込む。……あーあ。ホント、最悪だ。授業中、休み時間。昨晩の事がずっと頭をよぎり離れない……
ついかっとなり、母さんに迫った事。押し倒してしまった事。……母さんを傷つけた事。母さんに平手打ちをされた事。母さんに私を拒絶された事……
「…………家、帰りたくない……」
まさかこの私が、母さんの待つ我が家へ帰りたくないと思う日が来るとは。自分でも驚いている。
『……混乱してるんだよ。ヒメも……私もね。落ち着こう。落ち着くための、時間をおこう。ちょっと時間をおいて……明日、この件に関しては話し合おう』
あれだけの事を私にされて。それでも優しい母さんはそう言ってくれた。私に猶予を与えてくれた。……けど、それってつまりは……家に帰ったら……今日が。今晩が。死刑宣告されるって事なんだよね……
「……流石に。縁、切られちゃうかな」
私、お婆ちゃんのところに預けられるかも?それとも……母さんがお婆ちゃんのとこへ戻って、私は一人あの家で暮らす事になるのかも……どちらにせよ、母親に欲情するような娘、母親と離されてしまう事は間違いない。嫌だなぁ……母さんのいない毎日なんて、嫌だなぁ……
「……でも、仕方ないよね」
だって私。それだけの事をしたんだから。母さんに嫌われることをしてしまったんだから……
「……ハァ」
……一人でいると、やっぱりため息が止まらない。昨日の自分の愚かさを思い出してしにたくなる。いっそ誰かに相談でも出来れば……いいや、無理だ。こんな事、一体誰に相談できる?
藁にも縋る思いで匿名掲示板の質問箱を使ってみたけれど……結果はコレだ。誰一人まともに取り合ってくれないし……
「…………ハァ」
誰かに相談したい。誰かに弱音を吐きたい。けれど……それを言ってしまったら、母さんの立場が悪くなってしまいかねない。だから誰とも会いたくなくて。誰にもこんな奇特な事を相談できなくて。昼休みは人気のない空き教室で過ごしている。
けれど、一人でいるとホントにダメ。泣きたくなる。自業自得なのに、泣いてどうなるって話なのに泣いちゃいそうになる……ツライ、しにたい。もう嫌だ……
「…………だれか、助けて……助けてよ」
膝を抱えて蹲りながら、ポツリとそう呟いた私。
「―――う、うぉおおおおおおおおお!!??」
「…………ぇ」
―――ドドドドドドドドド…… バンッ! ガチャッ!
『んなっ!?消えた!?』
『ヤロォ!?一体どこ行きやがった立花ァ!?』
『逃げ足だけは一丁前になりやがって畜生が……ッ!』
『まだ遠くへ行ってないはずだ!探せっ!探し出せェ!』
『コマさんと別れる気がないならば、こっちから物理的に分かれさせてやるぞダメ姉ェ……!』
「ハァ、ハァ、ハァ……せ、セーフ……」
「…………」
……呟いたその瞬間。私のいた空き教室に一人の女生徒が突撃してきた。その女生徒はどうやら大勢の生徒に追われていたらしく。教室に入ると同時に鍵をかけそしてカーテンを閉めて息をひそめる。
突然やってきた闖入者に、落ち込んで母さんの事で頭がいっぱいだった私も流石に母さんの事を一時忘れてしまう。な、なに……?一体何がどうなって…………って、アレ……?この子……
「へ、へへへ……行ったみたいだね。しばらくここで身を隠しとこうそうしよう。やれやれ助かった―――」
「……あ、あの……?」
「ぬひょぉおおおおお!?し、しまった伏兵かぁ!?」
恐る恐る声をかけてみると、教室の隅に居た私に気づいていなかった彼女は文字通り飛び上がって驚く。……この声。このリアクション。そしてこのダメっぽいオーラ……間違いない。間違えるはずがない。
「く、くくく……来るなら来い!私、立花マコはどんな暴力にも屈しない!私は愛する恋人であり妹のコマとは別れる気は一切ないわ!さあ、かかってこい!」
「……ああ。やっぱり、マコだ……」
「って、アレ?……な、なんだヒメっちじゃないのさ……あー、びっくりした」
現れたのは私の親友の一人。立花姉妹の片割れ。ご存じダメ姉ことマコだった。
「……何してたの?なんで追われてんのマコ?」
「いやぁ、それが聞いてよヒメっち。あの連中さ、懲りずにまた恋人である私とコマを別れさせようと実力行使してきたんだよ。……今日はコマも、それからカナカナも用事があってさぁ……それでどうしても一人であの連中から逃げなくちゃいけなくてホント死ぬかと―――ヒメっち?」
「……?なぁに?」
「……なぁに、じゃない。どした?何があった?」
ペラペラと陽気な顔で状況説明し始めたかと思いきや、私の顔を見るなり急に真剣な顔を見せるマコ。
「何が、って……」
「落ち込んでるでしょ。あと、助けてほしいって思ってるっぽい。違う?今にも泣きそうな顔してるよ」
「…………」
「何があった?私に出来ることはある?何でも言って。なんでもいいよ。ホラ、ね?」
「…………ぁ」
そう言ってハンカチをスッと取り出して私に差し出すマコ。…………あー。いやホント。コマと言い、マコと言い。毎度毎度私の親友たちは、どうしてこんなにもタイミングが良いんだろう。……どうしてこんなにも、優しいんだろう……
私はハンカチと……それからマコの肩を借りて、とりあえず思い切り泣くことにした。……ごめん、ありがと……
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