母さんと誕生日編

第22話 誕生日?母さんに感謝するイベントです

「…………ハァ……」


 ……寒い寒い11月のある朝。私、麻生姫香は……そんな寒い朝に相応しく。寒々としたため息を大いに吐き、机に突っ伏していた。


「……ええっと。ヒメさま?ど、どうなさったのですか……?」


 気分はブルー。テンションダダ下がり。本日がこの世の終わりのような気分でいると、そんな私を心配して一人の女生徒が私に声をかけてくる。

 ノロノロと顔を見上げた先にいたのは……私の数少ない友人で、親友で、同好の士。超絶シスコン双子の一人である立花コマ、その人であった。


「……あー、ういーっすコマ。今日もコマは幸せそうでなによりだねー……あー、その幸せ私にも分けて貰いたいねー……はぁー……うらやましー……うらめしー……」

「え、あの……はい。確かに今すっごい私、幸せなのは認めます。認めますが……何故にヒメさまは私をうらやまし気に睨んでいるのでしょうか……?わ、私何かしましたか……?」

「……にくい。幸せ絶頂期なコマがとてもにくい……」

「何故に!?」


 この親友、コマは……紆余曲折あったものの。つい最近、長年の想い人であった双子の姉で私のもう一人の親友―――立花マコと見事に結ばれ、恋人同士になったらしい。

 私以上に長い時間をかけて想いを遂げただけあって、その幸せは想像を絶するもののようで。毎日マコと腕を組んで登校し、毎日『私たち、付き合っているんです♡』と学校の至る所で宣言している。あー……色ボケなコマがうらめしい、にくい……うらやましいなぁ……


「一体どうしてそんなにやさぐれているのですかヒメさま……?らしくないですよ」

「…………ごめん、これただの八つ当たりなの。気にしないで」

「八つ当たり……?ますますらしくないですね。本当にどうしたというのですかヒメさま」


 私の事を本気で心配してくれる親友。……ああ、ダメだね。いくらガッカリしていたからって、優しい友人に八つ当たりしちゃうなんて……ホント、コマの言う通り私らしくない。

 ごめんともう一度謝って。それからとりあえず事情を説明してみることに。


「……実はさ、今日はその……私の誕生日なんだけど……」

「ええ、知っていますよ。ああ、遅くなりましたがお誕生日おめでとうございますヒメさま。これ、私からの誕生日プレゼントと……それからこれが、マコ姉さまからです。『後でまた直接おめでとうって言わせてね』と、姉さま言ってましたよ」


 そう言ってコマは自分の分と、それから姉のマコの分のプレゼントを私にくれる。……うん。ホント優しい親友たちをもって、私は幸せ者だわ。


「それで?そんなめでたいご自身のお誕生日ですのに、何故にヒメさまはそんなにも落ち込んでいられるのですか?誕生日、嬉しくないのですか?」

「……誕生日自体は嬉しいよ。けど……だけどね……」

「だけど?」

「……今日ね、母さんが……仕事で会社にお泊りしなきゃいけないんだってさ……」

「……あー」


 涙目でそう伝えると、すべてを察した様子のコマ。……今朝、母さんにこう言われたんだ私。


『ごめんっ!ホントにごめんよヒメっ!今日は、今日だけはどうしても仕事で家に帰れそうにないんだわ!』


 って……さ。母さんがいない誕生日なんて……クリスマスにプレゼントを持ってこないサンタクロースみたいなものじゃないの……価値なんてないじゃないの……


「まあ、それは……確かに気持ちがブルーになるのも致し方ない事かもしれませんね。残念でしたねヒメさま」

「……うん。残念。とても残念。これじゃあ……母さんのお祝いが出来ない……」

「…………ん?母さんの、お祝い?」


 私がそう嘆いていると、コマはどうしてか不思議そうな顔を見せる。……?なに、コマ。


「え?どうしてお母さまのお祝いを?ひょっとして……ヒメさまのお母さまとヒメさまって、誕生日が同じ日なのですか?」

「……んーん。違うよ」

「???ではどうして……お母さまをお祝いするのです?」


 よくわからないコマの問いかけ。何を言っているんだろうかこの子は?


「……コマ、知らないなら教えてあげる。誕生日っていうのはね」

「誕生日というのは?」

「……自分のお母さんに、産んでくれてありがとうって感謝をして、そしてお祝いをする日なんだよ?」

「…………あ、ああ。そういう……ことですか」


 誕生日の主役とは、誕生者―――ではなく。産んでくれた母親だと私は思う。今年も盛大に、母さんにありがとうってお祝いしたかったのに……その主役の母さんがお仕事だなんて……

 ああ、今日はなんて厄日なんだろうか……


「ホント、筋金入りですよね。ヒメさまのお母さまへの愛って……」

「……そんなに褒められたら、照れる」

「いえ、別に褒めてはいませんよヒメさま……」


 私のその説明にどうしてか冷や汗をかきながら納得した表情を見せて、感心したような……あきれたような声でコマは呟いた。

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