第16話 母とダメな親友のすれ違いという名のコラボ
~SIDE:Mother~
そして迎えた2日後―――今日は待ちに待ったヒメとの三者面談の日だ。
「―――シャワーも浴びたし軽く香水も付けた。エステも美容院も行ってきたし、スーツ一式新しく買ってビシッと決まってる。…………うっし。完璧だね」
午前中に身だしなみを全て整え。余裕をもって面談時刻の1時間前に、無事ヒメと待ち合わせしておいた学校の校門前へと辿り着いた私、麻生妃香。
たかが三者面談。されど三者面談。ヒメの保護者として、ヒメを良く知る先生や生徒と出会うことになるんだ。ヒメが笑われないような、ヒメの母に相応しい恰好や立ち居振る舞いで挑まなきゃね。
「さーて。後は時間になるまでここで待つだけだが……どうしたもんかね」
「母さんっ!」
「お、おお……?」
流石に今から校内に入るのは早すぎるだろうし、どうやって時間を潰そうかと考えていた矢先。土ぼこりを上げる勢いで校舎から私の元へと駆けつけてきた、我が愛娘のヒメ。
「ひ、ヒメ?もう来てくれたのかい。てか、よくかーちゃんが来たのわかったね……?」
「……ずっと教室から見てたから。面談楽しみで、母さんが学校に来てくれるの楽しみだったから」
そう言ってポッと頬を染め、嬉しそうな笑顔を見せるうちの子。なんだよお前、可愛すぎかよヒメ……抱きしめたいなオイ。
「……それより。母さんこそもう来てくれたの?まだ結構時間あるのに?」
「ハハ……かーちゃんも楽しみだったからね。気が逸ってこんな時間に来ちまった。遅れないようにって思ってたけど……ゴメンよ、いくらなんでも早すぎたね」
「……ううん、そんな事無い。ありがとう母さん。忙しい中、こんなに早く来てくれてとっても嬉しい。……一緒に来て。ここで立ってるだけじゃ辛いだろうし、学校の中を案内してあげる」
娘との三者面談が楽しみで、楽しみ過ぎてエステや美容院で身なりを整えた挙句1時間以上前からスタンバってました―――なんて、気合入れすぎて引かれないか少し心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。
私の手をぎゅっと握り、まるで遊園地に来た子どものように興奮気味に校内へ私を連れて行こうとするヒメ。
「なあヒメ?まだ面談の時間まで大分あるのにかーちゃんが校内に入っても良いのかね?先生たちに怒られたりしないかい?」
「……大丈夫。校内見学してる他の保護者もいるし。何か言われても私が説明するから問題ない」
「そうかい。なら良かったよ」
「……そもそも生徒だろうが先生だろうが。ううん。例え国の一番偉い人だろうが。誰であろうとなんであろうと私の母さんに文句なんて、この私が言わせないから安心して」
「そ、そうかい……」
娘だけど妙に男らしい発言にちょっと圧倒される私。軽い気持ちで聞いたのに、何故だか重い一言が返って来た。いや、そこまでしなくても別に良いんだぞ……?
「……そ、それより母さん。折角早く来て貰えたんだし……お願いがあるんだけど。いい……かな?」
「へ?お願い?ヒメが私にお願い、だと……?」
そんなやり取りをしながら玄関で靴を脱いでいると、ヒメがモジモジしながらそんな事を言い出した。珍しいね……普段遠慮しいなヒメからお願いされるなんて。
「何のお願いか分からんが、勿論良いぞ!何だい?何かかーちゃんにして欲しい事でもあるのかい?ヒメのお願いなら、何でも聞いてあげられるからね!」
何であれ、ヒメからお願いとかおねだりされるのは親バカな私としては嬉しい限りだけどさ。私が出来る事ならば、何でも叶えてあげようじゃないかヒメ!さあ、遠慮せず言ってごらんよ!
「……良かった。えと、実はね……」
「うんうん、何だい?」
「実は……母さんに、会わせたい人が……いるの♡」
「…………は?」
上がりに上がって最高潮まで達していた私のテンションが、頬を染めたヒメのその一言で一気に堕ちる。……ヒメが、私に、会わせたい人が……いる?
このヒメの様子から察するに―――母親に、会わせたい人とは……つまり、それは……まさか……!?
「(こ、こここ……恋人かぁ!!!!??)」
こ、この流れはアレか!?まさか、ヒメ……『紹介するね、母さん。この人が私の大事な―――彼氏♡将来はこの人と結婚する予定』とか言う流れか!?
いずれ来るかもと恐れていた……母親に恋人を会わせちゃう流れなのか……!?
「……?母さん、どしたの?顔色悪くない?あと、なんだかちょっと怖い顔になってない?」
「…………は、ははは……ダイジョウブ。かーちゃんは、大丈夫だからね……」
「……そう?で、どうかな?会ってくれる……?母さんに会わせるの、前々から楽しみにしてたんだけど……」
「…………オウ。良いだろう。私も楽しみだぞ……」
「ホント!よ、良かった……ならこっち来て。早速会わせてあげる!」
「…………(ボソッ)一体どこの馬の骨が、うちの可愛くて純粋な子を誑かしたんだろうねぇ……ああ、楽しみだね……そいつに会うの、ホント楽しみだよ……!」
もし開口一番『娘さんを僕にください』なんて台詞を飛ばしてきたら、問答無用で殴ってやろう。そう心に決めながら、ヒメに悟られないように怒りを内に抑えつつヒメの後をゆらりゆらりと幽鬼のように静かに追う私。
◇ ◇ ◇
「と言うわけで。この人たちが会わせたかった二人。立花コマと立花マコだよ」
「「初めまして」」
「…………あれ?」
そうやって握り拳を作り、戦闘態勢を密かにとっていた私だったけど。私の目の前に現れたのは……ヒメには及ばないものの、非情に可愛らしい二人の女子生徒だった。
「あの……ヒメ?この子たちは……?」
「紹介するね、母さん。この二人はね、私の大事な―――
「しん、ゆう……親友?あっ……あ、ああなるほどね!親友ね!な、なんだ驚いた……私てっきり―――」
「?てっきり、なぁに?」
「い、いやナンデモナイヨ……ハハハ……」
てっきり、恋人・彼氏を紹介されると思って身構えていた……なんて口が裂けても言えない。笑って誤魔化しつつ、内心死ぬほどホッとする私。
よ、良かった……ヒメがお嫁にいくところなんて、見たくないもんな……少なくとも、今はまだ……
「コホン。そんじゃ改めて。麻生姫香の母、麻生妃香です。娘がお世話になってるね」
気を取り直しつつ軽く挨拶を済ませ、改めて目の前の二人を観察する私。体格の差や髪型の違いなどは多少あるけれど、顔は瓜二つなこの二人。
……ああ、なるほどね。この子たちか。いつもヒメが話しを聞かせてくれる例の双子ちゃんたちは。
「いいえ。こちらこそヒメさまには色々な意味でお世話になっています。ヒメさまのクラスメイトで友人の立花コマです」
「コマちゃんね。いやいや。ヒメがよく話をしてくれるよ。頼りになる優秀な友人だってね。いつもありがとな。これからもヒメと仲良くしてやってくれ」
先に背が高くてすらっとしていて、そして何より賢そうな子が私に挨拶をする。クラスメイトと言っているところからみると……ふむ。ならこの子はアレか。賢くて運動神経抜群な我が娘よりも更に頭がよくて運動も出来る、完璧超人なお姉ちゃんっ子の妹ちゃんの方か。
ならばその片割れは―――
「そうです!そして私がその頼れる優秀なコマの双子の姉であり、ヒメっちの友人の立花マコです!よろしくですヒメっちのお母さん!」
「あ、ああマコちゃん……ね。君が
「はい!……はい?例の?例のって……何ですかヒメっちのお母さん?」
妹ちゃんに続き……ヒメよりも背が低くて、ヒメ以上に……いや下手すると私以上にデカいダイナマイト級の胸を携えて、そして何よりちょっとおバカそう―――もとい、ちょっと抜けてそうな子が元気に挨拶をしてきた。
……あ、ああそうか。この子が例の……ヒメの家事の師匠で、色んな意味でおもしろくて……そして……
「そ、そうか…………君が例の―――『大好きな人から叩かれると愛を感じる』って吹き込んだ……変態シスターコンプレックスの子か……」
「ヘーイヒメっちマザー様!?初対面で何をいきなり妙な事言っているんでせうかね!?」
新学期が始まってから、うちのヒメがことある事に『私を叩いて、母さん……!』と懇願するようになった。その元凶が、どうやらこの立花マコという子にあるらしい。他にもこの子は何やらヒメに妙な事を吹き込んでいる様子だし……
「ちょ、ちょちょちょ……!?ちょっと待ってくださいよお母さん!?シスコンなのは……み、認めます。認めますが……叩かれてうんぬんかんぬんは寝耳に水です!なんかとんでもない誤解をされてる気がします!ね、ねえヒメっち!?君はお母さんに私の事をなんて説明したのさ!?」
「……?色んな事教えてくれる、良き友人だっていつも褒めてるよ?」
「だったらなんで私は、君の愛するお母さんにめちゃくちゃ警戒されてるのかね!?」
「すまないね……仲良くしてくれるのは嬉しいけどよ。ヒメの教育に悪いから……その。出来ればあまりうちのヒメに変な事教えないでくれないかい?」
「なんでぇ!?」
ヒメとこの子をさり気なく引き離しつつ、頭を下げて懇願する私。すまんね、マコちゃんとやら。誰と仲良くするのもヒメの勝手だろうけどさ、母親としては……あまりヒメの純情がダメになるような友達付き合いはして欲しくないんだよ……
「ま、待てよ……?『大好きな人から叩かれると愛を感じる』って…………あ、ああ!?アレかヒメっち!?夏休みにやった例のアレでしょ!?だ、だからそれはそういう意味で言ったんじゃないって何度も言ったじゃないのさ!?違うんですお母さん!?わ、私は別にそんな特殊性癖は持っていな―――」
「(ガシッ)ね、ねねね……姉さま……!?そ、そうだったんですか……!?姉さまって、その。え……
「へ?あ、あの……コマ?」
「す、すみません……知らなかったです。……あ、あの……!わ、私としてはノーマルといいますか……あ、いえ。ある意味アブノーマルですがそれは置いておくとして。……ね、姉さまをいたぶるような加虐趣味は持ち合わせていなくて……」
「え、え?あ、いや待ってコマ。ち、ちが……」
「で、ですが!姉さまが望まれるのであれば!この不肖立花コマ、いっぱいいっぱい勉強します!SMがご趣味な姉さまに悦んでいただけるように、研究しますので……!」
「だから違うってばコマ……!?ホント、なんか違うの!?風評被害って奴なの!お、お願い人の話を聞いて―――」
私とヒメを置いて、何やら姉妹漫才を繰り広げる双子たち。そんな双子たちを眺めながらにこにこと笑ううちの娘。
「……ね?おもしろくて、そんでもってとっても良い子たちでしょ母さん」
「…………そ、そうさね。おもしろいのは確かに認めるよ……」
「……うんうん。二人とも、私の自慢の親友たちだよ」
「オイそこの元凶マザコン娘ェ!?呑気に笑ってないでとりあえずこの状況何とかしろォ!!!??」
「ま、まずは鞭?ロウソク?……やはり拘束具ははずせませんよね。首輪とか、手錠とか…………あ、ヤダ。姉さまに首輪とか手錠を私の手で付けるのを想像すると……ちょっと、胸がドキドキと高揚しちゃって―――」
「コマぁ!?変な方向に行かないで!?お姉ちゃんの話を聞いて頂戴お願いだからぁ!?」
その後、ヒメの話が誤解と偏見で満ちていたという事を私とコマちゃんに理解してもらうべく。三者面談が始めるまでマコちゃんが一時間たっぷり涙目で説明する羽目になったのであった。
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