第17話 迷わず決めたその進路
愛しの母さんと大好きな親友たちとの感動の(?)初顔合わせも無事終わり。
「―――お待たせしました。それではこれより麻生姫香さんの三者面談を始めたいと思います。担任の山崎です。本日はどうかよろしくお願いします」
「おうさね。私がヒメ―――姫香の母の麻生妃香だ。今日はよろしく頼むよ先生」
「……母さんも、先生も。よろしくお願いします」
普段はこの場所に……学校にいるはずの無い愛しの母さんが、今私のすぐ隣の席に腰かけているという事実に若干興奮しながらも。いよいよ待ちに待った今日のメインイベント、三者面談が始まった。
「いやぁ、うちのヒメが
「いえいえ。そんな、こちらこそです」
「ッ……!?」
面談始まって早々。夢見心地のようにぽわぽわと浮かれ気分だった私は母さんのその一言にびくりと心臓が跳ね上がり現実に引き戻される。え……迷惑……?
「先生……私、いつも迷惑かけてる?だったらごめんなさい……反省します……」
「「えっ……?」」
これでも一応(母さんに褒めて貰うべく)普段の学校生活では優等生・模範生としてやりくりしていると自負してた私。だけど……ひょっとして私って、自分でも気付かないうちに先生方に迷惑をかけていたのかな……
もしかして『お宅の娘さんは迷惑ばかりかけています』って先生は母さんにいつも連絡してたのかな……だとしたら反省しないと……
「あ、あの……ヒメ?お前一体何を言って……」
「だって母さん今……いつもうちのヒメが迷惑かけているねって……」
「あっ……ち、違う!違うんだよヒメ!?こ、これはだね……社交辞令というか定型文というかある種お約束な意味であってだね!?かーちゃん含め誰も優しくて良い子なヒメが迷惑だなんて思ってなんかいないんだよ!」
シュン……と内心落ち込みながら母さんと先生に頭を下げると、母さんは慌てた様子でそう告げる。
「……?そう、なの?」
「当り前さね!な、先生!」
「は、はい勿論です。迷惑どころか姫香さんにはいつも私たち教師一同助けられていますよ」
あ、なんだそういうことか……ちょっと安心。先生もそんな母さんをフォローするかのように成績表を取り出して話を始めてくれる。
「学力等に関しては全く問題ありませんね。こちらが姫香さんの成績表です。元々好成績を修められていましたが、ここ最近は更に成績を上げていて素晴らしいの一言ですよ」
「……万年二位娘だけどね」
この学校に入ってから今に至るまで、親友のコマには一度も成績で勝てないでいる。これでも今回かなり必死に勉強したのに……私の努力を嘲笑うかのようにコマは全科目100点を取っちゃってて……正直あのシスコンには一生かかっても勝てる気がしないから困る。
「いーんだよヒメ。前にも言っただろ?他人は関係ない、自分がどれだけ頑張ったかが重要なんだって。こんだけ頑張ってるならかーちゃんは誇らしいぞ」
「お母さまの言う通りですよ姫香さん。……といいますか。今回かなり難しい試験だったハズですのに、全科目こんな高得点で試験を乗り切ってる姫香さんも十分凄い事ですからね」
「……ん。ありがと母さん、先生。……でも、やっぱ悔しいから……次は絶対、コマに勝つ」
「うん、その負けず嫌いはよし。流石私の愛娘さね」
ガシガシと私の髪を撫でる母さん。セットした髪がくしゃっとなったけど……母さんにいっぱい褒められて嬉しい。
「さて。それでは面談の続きに行きますね。成績は今言った通りですし、授業態度・素行等も全く問題ありません。普段は物静かですが困った生徒や教師には必ずと言って良い程手を差し伸べてくださる優しい生徒でクラスの人気者。部活動には入られていませんが、自主的に校内の清掃活動・教師たちの助力をよくやって貰っていますし……」
「へぇ……本当に頑張ってんなぁヒメ。良い子良い子」
「えへへ……」
担任の先生が私を褒め、それを聞いた母さんが自分の事のように誇らしくなってくれる。そして気を良くした母さんが私を目一杯褒めちぎってくれる―――そうそう、これよ。これを私は待っていた。心の底から楽しみにしていた……!
三者面談最高、母さん最高!
「―――と。そんな素晴らしい成績や性格の模範生である姫香さんですが、私的に一つ……
「「え……」」
なんて、気分良く調子に乗りかけていた私だったけれど。再度先生の一言にフリーズ。……気になる、事……?
「オウオウオウ、先生チャンよぉ……!気になる事って何だよオイ。まさかカワイイカワイイうちの愛娘に問題があるとでも!?難癖付けてんじゃねーだろうなァアアン!?」
「ひぃ!?」
途端、母さんは先生の胸倉を掴み。そして額には青筋を浮かべ抗議を開始しる。その気持ちは嬉しいけど、落ち着いて母さん……
「……ダメだよ母さん……先生に暴力はメッ、だよ」
「だ、だがしかしよぉヒメぇ!悔しくないのかい!?ヒメに問題があるなんてかーちゃん信じられないし、信じないよッ!?」
「……ううん。もしかしたら私も気付かないうちに先生に悪い事していたのかもしれない。だから落ち着く、ね?」
「……ちぃ、わかったよ……」
「(…………た、助かった……)」
私の説得を聞き入れて、先生を解放してくれる母さん。良かった……私のせいで流血沙汰にならなくてホント良かった……
「……それで。先生、私のどこ辺が問題?もし悪いところあったら私治すから……」
「どこなんだよ先生よぉ……ちゃんと言ってくれなきゃ色々困るんだがなァ……」
「い、いやあの……違うんです。誰も問題があるとは言ってませんし、まして難癖付けているわけでもないんです……ただ、学年主席の立花コマさんと同様に、姫香さんにも気になったことがあると言っただけで……と、とにかくこれを見てください!」
(何故か少し母さんと私に距離を取りつつ)先生は懐から何やら一枚の用紙を取り出して、私たちに見せてくれる。あれ……これって確か……
「……私の、進路希望調査?」
「あん?ヒメの、進路希望?」
なんだ。どこかで見たことある気がすると思ったけど。これこの前提出した私の今後の進路希望調査じゃないか。
「……先生、これのどこがおかしかったんです?」
「え、ええっと……どこがと言うか何と言うか。……すみません、姫香さんのお母さん。一つ聞きたい事があるのですけど……」
「ん?何だよ先生」
「この希望……お母さんも納得されているのでしょうか?」
「は?」
先生の質問の意図が読めない私と母さん。とりあえず先生に返してもらったその希望調査を見てみると……そこには。
2-B所属 麻生姫香 私の希望する進路は―――
第一希望:母さんが働く会社に就職 第二希望:なし 第三希望:なし
「…………こ、れは……」
私の希望調査を見て。どういうわけか母さんまでもが先生同様困惑した表情になる。……?どうしたの母さん?
「あの……お母さん?これは、その……娘さんと話し合ったうえでの希望ですか?その、母子家庭とは聞いていましたし、高校に上がるのが厳しいとか、そう言った経済的な事情でしたら……」
「い、いや待ってくれ先生。大丈夫、そっちに関しては問題ないからね……」
「……母さん、どしたの?これ、ダメ?」
母さんが困ったような顔を見せたのがほんのちょっぴり不安になって、母さんにそう尋ねる私。母さんはそんな私に対して複雑そうにこう尋ねてきた。
「ダメと言うか何と言うか……ヒメ……これ本気かい?進路希望調査って……中学卒業後の進路って事だよな?」
「……?うん。そだよ。私、中学上がったら……ここに書いた通り母さんの今いる会社に就職する予定」
「あ、あのよヒメ?もしかして家庭の事とか、金の事で心配しているのかい?別にそんな事考えなくても良いんだよ?」
「そうですよ姫香さん。もしそれでも不安なら奨学金などの申請も出来るでしょうし、姫香さんならまず間違いなく審査は通ると思います」
「そういう事。だからそっち方面は心配なんかしなくて良いんだからね」
「……?」
何で急にお金の話になってるんだろう?母さんと先生が何が言いたいのか私よくわかんない。
「なあ、ヒメは行きたい高校はないのかい?公立とかに限らず、私立に行きたいなら全然OKだし…………あー、ほれ。例えばあの親友の双子ちゃんたちと通いたいならそこの高校でも良いし……」
「……んーん。確かにマコとコマと離れるのはちょっぴり寂しいけど……でもやっぱり私、母さんの傍で一秒でも早く働きたい。母さんの傍で母さんの力になりたい。だから……高校には行かないよ私。卒業したら、母さんの会社に就職する」
「「…………」」
私のその説明に、どうしてか母さんと先生は更に困った顔で顔を見合わせる。……私、なんかおかしい事言ったのかな……?
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