第6話 思いがけないデートが始まる
「―――なあヒメ。突然で悪いがお前さん……かーちゃんと一緒にどっか行きたいところとかあるかい?」
「……?行きたいところ……?母さんと一緒に……?」
いつものように仕事の終わった愛する母さんを出迎えた私。その私に対し、母さんは何の前触れもなくそんな事を聞いてきた。……ええっと、一体何の話だろう?
「ああ。まあとりあえず難しく考えずに、何でも良いから一緒に行きたいところあったら好きに答えてみてくれないかヒメ」
「……母さんと一緒に行きたいところ……行きたいところ……か」
うーんと唸って考えてみる。……困った、そう言われてもいきなりすぎてあまり多くは思いつかない。とりあえずパッと思いついたのは―――
「…………お城、かな」
「し、城……だと……!?え、ええっと……ヒメ?それってアレかい?どっかの外国の古城か……もしくはどこぞの夢のネズミの国の中にある城に行きたいって意味かい?」
流石にスケールが大き過ぎたのか、母さんはビックリした顔で私に尋ねる。いや、お城って言っても高速道路付近にあるご休憩できるお城の事だけどね。
……いつか母さんをどうにかして連れ込みたい。連れ込んでイロイロとシたい。
「……まあ、それは
話が見えてこないから、どういう意図があってそんな事を聞いてきたのかを母さんに確認する私。その私の問いに頬をぽりぽり掻きながら母さんは答える。
「あー……いやなに、ちょうどヒメって今夏休み中じゃんか」
「うん。そうだね」
「かーちゃんもさ、来週から仕事もお休みになるんだよ。だからさ……」
「……だから?」
そう言って母さんは一呼吸おいてから、私に対してこんな事を言ってくれる。
「だから、ヒメと二人でデートでもしようかと思ってさ」
ふーん。なるほどデートね。そっかそっか、私と母さんがデートするのか。それはめでたいね…………ぅ、ん?
「…………でぇと?」
「おう、デートだ」
「…………かあさんと、誰が?」
「誰がって……ヒメがだよ。まあそんなわけだからさ、休みが入ったらどこか一緒に行かないかいヒメ?」
「デート……デート……でーと……」
「……ヒメ?えっと……おーい、ヒメ?聞いてる?何か反応してくれないとかーちゃん困っちゃうんだけど……や、やっぱ私と一緒じゃ嫌か?」
少し不安そうに私に問う母さん。一方の私はというと、
「…………(ポロポロポロ)」
「ヒメ……?どうし―――お、おいヒメ!?どうした!?泣いてんのか!?な、何か悲しかったのか!?私と一緒にお出かけすんのが、そんなに嫌だったのか!?」
「……ちが、違……うの……ちがうのぉ……うれしいの……」
「泣くほど!?」
夏だけど
我が世の春が
来たらしい byひめか
まさか……まさか母さんの方からデートに誘ってくれるなんて思いもしなかった。……わかってる。母さんからしてみればデート=女の子同士のお出かけって意味で言ったのだろう。
…………それでも、それでもやっぱり嬉しい。嬉しすぎて思わずぽろぽろと大粒の涙を零してしまう私。……生きててよかったぁ……
◇ ◇ ◇
そんなこんなでデート当日。母さんよりも先に家を出た私は、待ち合わせ場所で母さんを待ちながら念入りに身だしなみチェックを行っていた。
…………うん?何で一緒に住んでいるのに待ち合わせしてるのかって?だってデートだもん。こういう形式美は大切にしたいんだもん。そんな乙女心があるんだもん。
そう考えた私は、母さんに頼み込んで後からゆっくり来て欲しいと頼んでおいたのである。
「……寝癖は無し。家を出る前にシャワーもしっかり浴びた。香水も一番良いのつけた。勝負服もバッチリ。…………もしもの時の為の、勝負下着も勿論バッチリ。マナーとして爪もしっかり切った……よし……良しっ!」
……うん、身だしなみは完璧。後は母さんが来るのを待つだけだ。手鏡をバックにしまいつつ息を整える私。デートだからって変に緊張しないように……そして変に意識して母さんを困らせないように今から気を付けないとね。
「―――ようヒメ、お待たせ。ワリィ遅くなったな。結構待っただろ?」
「ううん。全然待ってないし、時間ピッタリだよ母さん」
「そうかい?なら良いんだけどよ」
しばらく目を閉じて精神集中していた私に、デートの待ち合わせとしてはお決まりの台詞を告げながら母さんがやって来た。
いつもの仕事着でもなければ普段着でもないお洒落な格好で。…………いつもは凛々しく逞しい母さんだけど、今日は何だか可愛い……それもまたイイ……
「さて。こんなところで突っ立ってても仕方ないし、早速遊びに行くとすっかね」
「そうだね……じゃあ母さん、今日はよろしくお願いします……」
「おうよ。こっちこそよろしくなーヒメ。…………ハハッ、なんかちょいと気恥しいな。家族なのにまるでどこぞの初めてデートするカップルみたいな会話じゃんかコレ」
「…………うん、そうだね」
そんな会話をしながら母さんと共に歩き出す私。……カップルみたい、か……それはまた願ってもない事だ。
「けどホントに良いのかいヒメ?今日のお出かけのコースを私が選んじゃってよ。ヒメの行きたいところがあったら、好きなようにいって良いんだぞ?」
「……ううん。母さんの行きたいところ優先で良いよ」
私の歩幅に合わせながら先導する母さんが私にそんな事を尋ねてくる。そう言われても私、正直遊び慣れてないからどこ行けばいいかわかんないし……
それに折角のデートなら、やっぱり一番大好きな人にエスコートしてもらいたい乙女心がある。だから今日は母さんのデートプランに全面的に従うつもりだ。
「そ、そう……か。まあヒメが良いって言うんならそれで良いケドさ…………(ボソッ)やっぱ私に遠慮してねぇかなヒメのやつ……」
「……?どうしたの母さん?」
そう私が答えると、歯切れが悪そうな口調になる母さん。なんだろう……何だかちょっぴり不服そうに見えるような……?
「いや、何でもないよ。ただその……アレだ。折角の二人っきりのお出かけなんだし、かーちゃんとヒメの間に遠慮なんて無しだぞ。ヒメのやりたい事とか行きたいトコとかお願い事とかあれば、かーちゃんに遠慮せずに言って良いんだぞヒメ。普段はヒメばっかり私の世話してるわけだし……今日は家族サービスデーって事で。遠慮しなくて良いんだからな?な?」
「……そう?」
何だか妙に『遠慮するな』と強調する母さんに少し違和感があるんだけれど……まあいいか。
折角こう言ってくれてるんだし……なら遠慮せずにお願いしてみようかな。
「……じゃあ、早速お願いしてもいい?」
「おっ!何だ何だ?何でも好きに言って良いぞヒメ!」
パァッと明るい表情で、母さんはすっごく上機嫌に私に尋ねてくる。…………なんか、やっぱり今日の母さん変な気がする。もしかして私と同じように母さんもお出かけに浮かれているのだろうか?
……もしそうなら、私は嬉しい。今私が母さんとのデートを意識しているように、少しでも私とのデートを意識してくれているのであれば。これ程嬉しいことは他に無いよね。
「……えっと……じゃあお願いなんだけど」
「おうよ!ドーンと来なヒメ!」
「……そ、その……手、を……」
「手?」
「……母さんと……手を繋いでも……良いかな?」
嫌がられたり気持ち悪がられたら怖いなと思いながらも、恐る恐るお願いする私。デートと言えば、やっぱ手を繋ぐのは基本だよね。
そんなお願いをした私に、ポカンとした表情のまま母さんは固まる。
「…………(ボソッ)もっと無理難題言っても良いのに……やっぱ、欲が無いのかねヒメは……」
「……え、えっと……母さん?やっぱり……ダメかな……?」
「あ、ああいや……ダメだなんて一言も言ってないけどさ。……ただヒメは物好きだなって思ってよ。こんな年増な実の母親と手を繋ぎたがるなんて……普通は嫌じゃないのか?」
「……嫌なんかじゃない」
……別に母さん年増なんかじゃないし……嫌だなんて微塵も思わない。思うわけがない。
「そっか。まー、ヒメが良いならなんも問題ないね。……では仰せの通りにお姫様。ささ、お手をどうぞ」
「う、うん……!」
茶目っ気たっぷりにそんな事を言いながら、母さんは素敵な笑顔を向けながら私の手を取って優しく握ってくれる。繋いだ手から伝わる温もりが何とも心地いい。
「んじゃそろそろ行くとすっか。最初は……そうさね。ベタだけど映画見に行くとしようかねーヒメ」
「ん……了解」
そんなわけで親子二人で仲良く手を繋ぎ、デートスタート。さあ、折角の母さんとの二人っきりのお出かけなんだ。目いっぱい楽しむとしようじゃないか。
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