第4話 二人っきりの幸せなお風呂タイム

『何であれヒメの精一杯のおねだりだしな。メシ食い終わったら、一緒に入ろうなーヒメ』


 ……期末試験で学年二位の成績を修めたご褒美に、ダメ元で一緒にお風呂に入りたいと言ってみた私。断られる前提の無理あるおねだりだったけれど……母さんは飄々とした顔でOKしてくれた。

 …………なんでも言ってみるものだね。ありがとう母さん。そしてありがとうご褒美の話題を間接的に作ってくれた私の親愛なる友人たち。


『おーい、ヒメー?まだかー?お湯冷めちまうぞー?』

「ぅ、うん……今行くよ……」


 脱衣所でそんな事を考えていると、先に入っている母さんが浴室から声をかけてくる。……いけないいけない。折角の母さんと一緒のお風呂だ……一分一秒無駄にできない。余計な事を考えてる暇があるなら、その時間を母さんとのお風呂の時間に費やさないと。


 自分の頬をぱちんと叩いて気合を入れる。意識し過ぎて挙動不審になったり、興奮しすぎて母さんを押し倒したり、ガン見し過ぎて引かたりしないように気を付けてなきゃ。その事をもう一度だけ自分に言い聞かせてから、いざお風呂へと出陣。


「……お、お待たせ。母さん……」

「おー、待ってたぞー」

「…………」

「……ん?ヒメ?どうしたヒメ?聞いてる?もしもーし?」


 …………早速出鼻を挫かれる。湯船に浸かる母さんは、それはもうとても美しく輝いていた。濡れた髪に火照る肌。

 カメラはなくとも網膜に、脳裏に深く焼き付ける。…………こまった……きれい。これじゃめがはなせない……


「おーい、ヒメ。そんなとこで突っ立てないで入れよぉ。風邪引いちまうぞー」

「……う、うん……ごめん。十分堪能させてもらったし……すぐ入るね……」

「おー!入れ入れー!…………ん?堪能?なにを?」


 あぶないあぶない……あと数瞬目を逸らすのが遅れていたら、勢いに任せて取り返しのつかないところまで暴走するところだった……

 ブンブンと頭を振って邪念を追い出して、風呂桶にお湯を汲みかけ湯をしたら……


「……えっと、じゃあその……失礼……します……」

「何故に他人行儀……?まあいいか。おいでヒメ」


 手を広げて母さんが優しい声で湯船へ私を招き入れてくれる。私が湯船に侵入したことで、水位が私の体重分上昇。一人ずつ入る前提でお湯を張ってたから……お陰で少しお湯が溢れ出てしまった。


「あらら……ちょいと溢れちまったな」

「う、うん。……ごめん。私が一緒にお風呂入りたいなんて言ったから……お湯、勿体なかったね……」

「ハハッ!そんな事気にすんなよヒメ。大した問題じゃないさ。それよりホレ。かーちゃんに遠慮なんてせずにもっと手も足も伸ばして良いぞ」


 ……決して広くはない湯船だ。私が侵入してきた事でお湯は溢れちゃうし、腕も足もくっついてしまう程手狭になる。(勿論、私的には母さんと密着することが出来て、死ぬほど幸せだけど)

 だと言うのに不快感を表に表さないばかりか、にこにこ笑顔の母さんは幸せそうな口調でそう言ってくれる。……?何だか母さんまで嬉しそうだけど……どうしたんだろう……?


「……母さん。何だか嬉しそうだけど、どうかしたの?」

「んー?そう見えるかい?」

「……うん。見える」

「そっか、顔に出てたのか。……まあアレだよ。昔は二人で入っても狭くなんて感じなかったし、お湯が溢れる事も無かったからさ。……ヒメも大きくなったなーって感慨深くなっちまった」


 私の身体をじーっと眺めつつ、しみじみと母さんは呟く。


「……大きく、なったかな……?私あんまり背は伸びてないけど……」

「いやいや。デカくなったよヒメ。昔はこーんなに小さかったんだぞー?」

「……母さん。それって一体いつの時代の話?」


 自分の小指の先を私に見せつけるようにして話す母さん。……爪先ほどの小ささって、多分その段階だと私は産まれてすらいなかったと思うの。


「まあそれは冗談だけど。……うん。ヒメも大きくなったよ。かーちゃん色々ダメな親だけどよ……ヒメがすくすく育ってくれて嬉しいな」

「……母さんは、ダメな親なんかじゃない。いつだって立派だよ」

「おぉ!?ほ、ほんとかー?いやぁ、嬉しい事言ってくれるなぁうちの子は!」


 私の一言に上機嫌になる母さん。……ダメどこか、立派で綺麗で強くてカッコよくて可愛くて素敵な……私のお嫁さんになってもらいたいって思ってるくらいからどうか安心してほしい。

 ……流石に後半部分の願望は、本人には口が裂けても言えないけど。


「さーてと。かーちゃん暖まったしそろそろ身体洗おうかな。ヒメ、先に洗うかい?」

「……ううん。母さんが先で良いよ」

「そっか。ならお先に~」


 そう言って母さんは湯船から上がって頭や身体を洗い始める。……そして私は横目でちらちらとその母さんの一挙一動を眺めさせて貰う事に。


「ふぃー……身体洗うと生き返るなぁやっぱ……」

「(…………刺激的過ぎて私は死にそうだよ母さん……)」


 心の中でそう呟く。……気をしっかり保たないと私、興奮しすぎてホントに死ぬかも。……30歳になる母さんは……その歳を感じさせないほど若々しく、そして美しかった。


 水に濡れて輝く髪も、その髪をかき上げて露わになる首筋も。腰のくびれも細長い足も魅惑の太ももも触り心地が良さそうなお尻も。それから……張りがあってむしゃぶりつきたくなっちゃう大きなお胸も……どれもこれもやっぱり凄い。これが大人の魅力という奴なのか……


「―――メ、なあヒメ?」

「……え?」

「さっきからどうしたんだヒメ?かーちゃんの身体そんなに見て。何か変か?」

「…………えっ?あ……」


 ……覗いているのをバレないようにチラ見していたハズなのに、どうやら自分でも気付かないうちに身を乗り出してガン見していたらしい。どんだけケダモノなんだ私……

 母さんも私の食い入るような視線に気付いたようで不思議そうにそう尋ねてくる。これはマズい。


『母さんの身体がセクシーすぎて見惚れてた』


 ……とか正直に言えるわけ無いし……どうしよう、どうしよう……


「……えっと……えっと、その……せ、せなか……」

「背中?」

「……せなか……そ、そう。背中を……母さんの背中を……流してあげようかなって、思って……見てた……だけだよ……?」

「……いや、ヒメ?残念ながらかーちゃん、ちょうど今背中を洗い終わったばかりなんだが?」


 咄嗟にそんなちょっと苦しい言い訳をしてしまう私。ダメか……流石に無理があったね。……えっと……他、他に何か良い言い訳はないだろうか……


「んー……ま、いっか。届いてないところもあるかもしれないもんな」

「え……?」

「ヒメ、ヒメさえ良ければ私の背中流してくれないか?」

「っ!う、うん!喜んで……!」


 と、次の言い訳を考えようとしていた私に、優しい母さんは私の話に合わせて気を遣って助け舟を出してくれる。ありがたい……ここは乗っからせてもらおう。


「……じゃ、じゃあ……洗うね。くすぐたかったり……痛かったらちゃんと言って」

「おう頼むぞー。ふふん、娘に背中流して貰えるなんてかーちゃんは幸せ者だねぇ」


 怪我の功名というべきか。見るだけじゃなくて触れることも許されるとは思ってなかった。任されたからには真剣にお背中を流させてもらおう。


「……その……どうかな?かゆいところ、無い?力加減はどう……?」

「うん、良い感じだよ。ヒメは洗うの上手さねぇ」

「……あ、ありがとう……」


 泡立てたスポンジで洗いながら、改めて母さんの背中を見る。……女性に対しての褒め言葉では無いかもしれないけれど、大きくて逞しいこの背中はいつみても惚れ惚れする。

 ……別にボディビルダーみたいに鍛えているとかそういう意味じゃない。私をここまで愛情をもって接してくれた、私を一人で育ててくれた、私を守ってくれた立派な母さんの背中。それは何よりも誰よりも綺麗で……ほんとうに……きれい、で……


「ヒメ?手が止まってるけど終わりかい?」

「あ……う、うん。ゴメン、終わった。洗い流すね」


 ……いけない。どうやらまた私はトリップしていたらしい。この癖、治していかないといつかとんでもない事になりそうで怖い……

 とりあえずコホンと咳払いをしてから母さんの背中に残った泡を洗い流す私。


「サンキューなヒメ。悪いね、こんなことさせてしまって」

「ううん。私から、言い出したことだから……じゃあ、次私が洗うから……母さんは―――」

「おう。任せなヒメ。綺麗に洗ってやるからなー」

「…………うん?」


 『次私が洗うから……母さんは休んでて』と言おうとした私から、スポンジを奪い取り何故か母さんは私の背中に回りこむ。

 ……?……??ええっと……任せなって……


「あ、あの……母さん?一体何を……」

「ん?ヒメも洗ってくれただろ。だからお礼に私もヒメの背中洗ってやろうかなって思って。あれだ。洗いっこってやつだ」

「…………!?」


 ……なんですと……!?


「い、いや……いいよ。恥ずかしいし……一人で洗える……」

「おっと、こらヒメ。どこ行くつもりだ。座りな」


 そんなことされたら、多分自分の抑えがきかずにえらい事になってしまう。慌てて逃げ出そうとしたけれど、こんな狭い場所から逃げ出せる余裕なんて無く……そのままバスチェアにちょこんと座らされてしまう私。


「なーに恥ずかしがってんだよヒメ。親子なんだし恥ずかしいも何もあるかいな。あたしゃヒメのオムツも替えてたんだぞ?」

「おむ……っ!?」


 お、オムツって……い、いやまあ親子なんだしそりゃそうだろうけど……!

 …………だ、ダメだ……今の母さんの一言で、私また変な方向に興奮しちゃったじゃない……


「んじゃいくぞー」

「ま、まって……お願い、ちょっとだけ待っ―――」


 逃げ出す事も、拒否する事も許さずに母さんはさっさと私の身体を洗い始めた。私が小さかった頃は母さんが洗ってくれていたから慣れているのだろう。絶妙な力加減で洗ってくれる。……正直、気持ち良い……


「お客さーん?気持ちいですかい?」

「ぅ……ん、すごい……きもちいい……」

「そりゃ重畳。かゆいところあったら遠慮せずに言うんだぞ」


 結局気づけば抵抗なんて出来ずにされるがままになってしまう私。……でも仕方ないと思うの。こんなに気持ちいいの……我慢なんてできない……


「にしても……やっぱヒメも大きくなったよなー」

「そ、そう……かな……?」

「おうとも。ついこの間まではヒメの背中流すのもそんなに大変じゃなかったのに、今じゃ洗うのも一苦労だよ。……お陰でかーちゃん感動してる。ホント、大きくなったなぁヒメ」


 私の身体を洗いながら、またさっきのように感慨深げに母さんは呟く。……母親として娘の成長はやっぱり嬉しいのかな。

 ……でもごめんね母さん。身体の方はすくすく成長したけど、精神のほうはどんどん残念な方向に成長してて……やっぱり中身のほうが母さんにバレたら失望されちゃうかな……


「とーくーにぃ……!この部分とか立派に成長したなぁ!なあなあ、いつの間にこんなに大きくなったんだヒメー?」

「……ふぇ?」


 なんて考えていたら、いつの間にか背中を洗っていた母さんの手が前の方へいっていた。前の方……そう、つまりは……私の胸へと。…………うん?え、あれ……?ちょ、ちょっとまって……何やってんの母さん……!?

 いきなりすぎて硬直している私を置いて、母さんは私の胸を洗う―――どころか、もにゅもにゅと揉み始めたではないか。


「かっ、かあ……さ……!?な、なにを……」

「背中洗い終わったし今度は前洗おうかと。いやぁ……ホントよく育ったもんだ!この大きさ、私がヒメくらいの頃はここまでデカくはなかったのになー」

「や、やだ……ちょっ、と……も、揉まないで……んくっ……」

「ふはははは!良いではないか良いではないか!娘の胸の成長を確かめるのは母親の特権だぞー!」


 そんな特権、聞いたこと無い……っ!パニックになりかけている私の様子を面白がってか、母さんは私の抗議など聞く耳持たないと言いたげに後ろから胸を更に揉みしだく。

 リズミカルに、時に強く、時に優しく……時には左右揉む力をバラバラに……時には鷲掴みにして、それはもう丹念に揉む。揉みまくる。


 まって……本当に、まって……なんで、こんなこと……というか……なんで、こんなに……上手いの母さん……!?や、ばい……このままじゃ、わたし……


「ふぃー、堪能したー!」

「っは……っ!はぁっ……はぁ……はー……」


 もうちょっとで意識が飛びそうになったところで母さんは胸から手を放す。……母さんが楽しそうでなによりです。

 私はそれどころじゃないけどね……


「…………なんで、もむの……」

「いやぁ、つい。最近ヒメの胸、急成長してたし前からちょっと揉んでみたいなーって思ってたからさ。減るもんじゃないしいいだろー?揉むついでに胸も洗えたことだしさ」

「……へるよ。すごく減ったよ」


 主に私の寿命が磨り減ったわ。母さんに胸揉まれちゃったら……嬉しすぎて危うく昇天しかけたじゃないの。

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