第49話 土のおくすり~アルビオン連合王国~(11)

 以前の大地主おおじぬし制度とは、今回の新農業法は若干違う。


 今後、アルビオンにおいて、農家という職業を得るためには、国家こっか資格試験しかくしけんに合格する必要がある。

 その試験を受けない者たちは、国家による農業退職金たいしょくきんを選び、農地を国に返すだろう。

 試験に合格した者は能力値によって、国から農地を追加で配分された上に、資金援助も受けることが出来るようになるはずだ。

 農業従事者は少数しょうすう精鋭せいえいになり、全国民における労働者の10%程度までしぼられる予想である。


 アルビオン新農法は、少人数による農業資格者により、機械化かつ大規模な農場を運営する方法に切り替わっていく。

 効率的な集約しゅうやく農業のうぎょうは、この国の食糧しょくりょう自給率じきゅうりつを改善していくことだろう。


✝✝✝✝✝✝✝✝


 バーム宮殿に戻る。

 私の叔母に当たる、ビビ女王との対面は、兄弟から話を聞いた数日後だった。

 パーシィや私の説得で、新しい農業政策に納得し裁可さいかをくれた。


「私が負けよ。アルビオン産の麦で美味しいパンを作ってちょうだい」


 ずぶれになったパーシィは、女王に礼をして、部屋を去った。

 彼の母である女王を怒らせて、水をかけられたのに、王子は笑顔で法案ほうあん作成に向かったのだ。

 

 その時、私も一緒に去ろうとした。ちょっと待ちなさいと、ビビ女王は私を呼び止めた。


「マリィ、貴女にプレゼントがあるの」

「はい?」


 農業に関する新たな法案が議会にかけられる時には、すでに私はアルビオン島を離れていた。

 私が乗る船は、島から大陸に、海峡を南へ向かう。


 あの時、ビビ女王から下賜された『銀のスプーン』は、今でも私の手の内にある。

 王族の紋章もんしょうが入っているので、超貴重な1品だろう。とても高いはずだ。

 アルトと一緒に、鏡のように映る2つの顔をずっと見続けた。


 最初は嬉しいだけだったけど、その意味を分かってから、ちょっと今では緊張感もある。

『Born with a silver spoon in your mouth』 (ボーン ウィズ ア シルバースプーン イン ユア マウス)

 恵まれた家柄に生まれた貴女あなた、そして恵まれた人生を歩む貴女あなたは、世界に対して大いなる責任を持つ。


 類推だが、ビビ女王のメッセージを、私はちゃんと受け取った。

『銀のスプーン』は大事にローブの中へしまった。

 そして、前を見よう。王都パレスに帰るぞ。

 あれから1年が経ったのだ。もうすぐ、この旅は終わる。


 船は、私たちのフランシスの大地に、接岸したようだ。

 私とアルトは、北部の港町に降り立った。

 乗り心地の悪い、陸ドラゴンに揺られて、故郷ふるさとを目指した。

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