第45話 土のおくすり~アルビオン連合王国~(7)
アルビオン島の南中央部を占めるエングラ領。
移り気な北の大地の天気は、雨雲を向こうにしながら、まだ夏の晴れの日を保っていた。
馬車はゴトゴト音を立てながら、あぜ道を行く。
主要な港や街の道路は整備されているが、まだ女王の宮殿までの道路は整備が追い付いていない。
女王様は、質素倹約が好きらしい。自分の土地より、他人の問題に尽くすから、国民に支持されるのはわかる。
他人の国の女王様が羨ましく思った。
先ほどの大人のような心配顔が、今では子供のような不満顔に変わっていたようだ。
私の表情の変化を察して、リーフさんは話し掛けた。そして、気持ちが少し上向きになったらしく、笑い出した。
「マリィ、我が王のやり方は嫌いかい?」
「好きです。その分、自分の国が嫌いになりそうです」
「そうか、それは良かった。ははは!」
「笑いごとでないですよ! この旅路で、近代化している国は見ましたし、逆に100年の伝統を守っている国も見ました。他国の方が王も政治家も立派で、いかに自分の国が厳しい立場に……」
思わず私は、反論を止めた。
私は気づいたのだ。
この世界は何処までも泥沼の中にあると思っていた。
盗賊たちやならず者たちによる、他人の幸せを奪う行為がある限り、誰も幸せになれないと考えていた。
魔法使いは、悪人を退治するだけのつまらない職業だと決めつけていた。
でも、世界のあり方は国によって違う。
この旅で見たもの、触れたもの、考え抜いたもの、その全てが私の考え方を変えた。
私の母国、フランシスにも明るい未来があると思えるから、今、
猫のように表情が変わる私。
アルビオンの淑女たるリーフさんは、それも察して、話題を変えた。
そろそろ遠くにバーム宮殿のシルエットが見えてきたのだ。
「あ、バーム宮殿の旗は、王冠マークではないな。国旗だ。残念ながら、我が王は不在ということだ」
「この距離で良く見えますね」
「マリィは目が悪すぎるぞ。夜の本読みは少し控えたらどうだい」
う、厳しい言葉。
確かに、将来を考えたら、これ以上、視力を下げたくない。
私が渋い顔でうつむいていると、床に座っていたアルトが心配そうに鳴いてくれた。
すぐに馬車が停まる。
1人降りたリーフさんが、門衛兵に取り次いでいた。
帰って来た彼女は、満面の笑みだった。
何か良いことがあったのだろうか。
彼女は当然のように話した。いまいち、家族関係を実感できなかった私が聞き流していたことだ。
「我が国の王子であるパーシィ殿下が、庭で作業しているそうだ」
「えぇ、それがどうしましたか?」
「マリィ、冷たいな。俗な物言いだが、君のお
「はい……え? えぇーッ?」
家族というのは、もう縁がないことだと思っていた。
お師匠と姉弟子たち。魔法使い見習いの私には、血のつながりはなくても、愉快な仲間を得ていたから。
お
待て待て。
国同士の仕事で、アルビオンを訪れたのだ。私の
私は公私混同してしまい、焦りを顔に浮かべた。目が回る回る。
「どどどどど、どうしたら良いんですか?」
「あー、どうしたら良いんだろうなー」
オーク族のリーフさん、楽しいことを見つけてニヤニヤ笑み、
そのわざとらしい態度に、私は涙目になった。
すると、空気を読まないアルト、腹が鳴った。
「きゅー!」
ご飯にしよう、らしい。
開き直った顔をする相棒は、お腹が空いたようだ。
「食事にするか」
「はい。うちの相棒がすみません」
もう笑いは腹の中に落とした。私はお礼を口にする。
まずは食事だ。
馬車から降りた。私たちは歩いて、バーム宮殿の中へ入る。
不思議なことに、この庭で作業しているはずの
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