第6章 土のおくすり

第39話 土のおくすり~アルビオン連合王国~(1)

 朝日を映す北海ほっかいを船で渡った。

 ノルドを出て今、農業国で中継地のホランズ国ローダムの港に、私たちはいた。


 船着き場で、もめる女性2人を、私とアルトは遠い目で見ていた。なるべく他人のフリをしたい。

 半狼はんろうの女海賊船長、イグニス。白いコートを羽織はおる、長身で美しい女性。でも、喧嘩ケンカ口調が玉にきず

 そして、緑色の肌で、金色長髪、鋭い目をした筋肉隆々の超高身長な女性。私は見たことがない種族だけど、たぶんオーク種だ。イグニスさんより大柄であった。

 それにバサバサとは広がらない濃紺のうこんのズボン、えりが付いているが制服だ。

 あの格好は、アルビオンの水夫セーラーかな。柄のついたブラシで、船の甲板をせっせと磨いていそうだ。


 イグニスさんが、半狼らしく唸る。大柄な水兵のオークさんも高圧的に言い返す。


「戦争で没落したアルビオン人さんじゃないですかぁ。どでかい船で鈍そうですねぇ」

「航海法で制限速度が決まっているのだ。貴官こそ、海の上の軍人らしく振舞ったらどうだ?」

「はぁ? 誰が海軍兵士ネイビーだってぇ? 君の国家おうちの決まりごとを押し付けないでくれるか?」

「我がアルビオンこそ、大海の法治国家であろう! 偉大なるグレート女王様アルビオンに失礼であろう!」


 対立。そして、頬を引っ張り合う海の女戦士たち。

 白い狼イグニスさんと緑の巨人オークさんは、ものすごい仲が悪い。どちらも怒りん坊な種族なのだ。

 周りから、白い目が投げかけられている。すごい数の視線が密集してきた。

 その港の人たちは無言だ。

 彼女らに関わらないということは、通報済みだろう。もうすぐ湾岸の警察官たちが飛んでくるはずだ。


 あの喧嘩ケンカが終わるくらいには、船の補給も終わるだろう。

 港で少しだけ待っていても、私たちは苦ではない。たまに、この小さい身体を休ませることも大事だ。


 そう良い訳をする私は、青い空を見上げた。

 塗りたくったようなスカイブルー。入道雲は空高い。

 暑い風にも夏の色が感じられて、全てが濃い。すっかり季節は変わった。

 日差しが強く感じるくらい、今日も良い天気だ。

 魔法使いの帽子を目深にかぶる。

 水っ気がなくなって乾いた薄茶の土に、長いくせっ毛の黒い影が動いている。

 そう、私の足下が見える。


 すると、相棒のベビードラゴン、アルトがするりと私の前に現れた。

 どこから持ってきたか分からない手紙の角で、私のすねをつつく。

 私はしゃがみ込み、アルトから手紙を受け取る。そして、彼の頭を優しくなでる。

キュッキュッ、と目を細めて、相棒は喜んでいた。

 さて、手紙を開くか。

 警官たちがやって来たのだろう、周りの音が消えた。

 外野の私は、気にしない。今、手元の手紙を読む方が、大事だ。

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