第3章 風のおくすり
第14話 風のおくすり~聖教会アンジェリ~(1)
私、魔法使い見習いのマリィ。
金髪くせ毛で、眠そうな青い目、少し身の丈より大きいローブ羽織った12歳の女の子。
お師匠の代わりに、お仕事を引き受けて、外国へお仕事に来ている。
今度のお仕事の内容は、南での流行り病の調査だ。
フランシス王国から、自由都市同盟を超えて、聖教会アンジェリの領土に入った。
空ドラゴン便にて飛んで、このまま目的地まで行こうか、というときだった。
逆方向から飛んできた鳥から、空ドラゴンは伝言を受け取った。
その途端に、同じところで宙を回り出した。
そして悩んだ上で空ドラゴンは短くうなると、私たちをとある港町近くで振り落した。
あれ……アンジェリはさらに南の方だ。
疑いの目で私は、空ドラゴンに文句を言おうとした。
次の瞬間には、海に落ちて、私たちはずぶ濡れになった。
怒ったらいいのだろうか。悲しんだらいいのだろうか。
海に落ちちゃったのは仕方ない。南の海は幸いに暖かい。
目を回しているベビードラゴンのアルトのしっぽをつかんだ。
とりあえず、海面へ浮き上がった。
くぐもった低い声が頭上にかかる。
「おぉい、お嬢さん。大丈夫かぁ?」
「ありがとう! 何とか生きています!」
猟師の船がすばやくやってくる。お魚の頭をした青い肌の商人たち、マーマンだ。
海面に浮かぶ私たちを助けてくれた。
とりあえず、船におじゃますることになる。
船は生魚の臭いがする。ギシギシ鳴る木の床。生けすを見ると、色鮮やかな南国らしい魚たちがいた。
「ほら、使いなよ」
「ありがとうございます」
気を利かせてくれた、マーマンの1人がタオルを手渡す。
私はタオルを受け取り、身体を拭く。
ブルブルと震えて、犬みたいに水をはじく、アルト。その身体も、私が拭いてあげる。
助けてくれたお礼をする。そして、私の身分と目的を名乗った。
「私は、フランシス王国の魔法使いクロウドの弟子、マリィです。彼の代わりに、聖教会アンジェリの病を調査しに来ました」
「そうかい、遠くからわざわざ、大変だったろう。でも、時期が悪かったねぇ」
アンジェリに入ってはいけないということ。それが何となく分かる。
いったい、何が起きているんだろうか。
私は誰にも言えなくなっていた文句を口にする。マーマンの皆さんに言っても仕方ない気もするけど。
「時期が悪いと、空ドラゴン便は海に落とすんですか?」
「昨日、決まったからねぇ。アンジェリへの全ての道は封鎖されてしまったのさ」
「全ての道を閉ざしたんですか。それは、急な話ですね」
「お嬢さんの言っていた、例の流行り病を広げないためさ」
困り顔なマーマンの話は分かりやすかった。
アンジェリの許可をもらっている海の商人マーマンたちでさえ、この港に泊まっている状態だ。
謎の病。それが都市の封じ込めに移っている。
それは大変なことだ。
若い私でもうなずける。
穏やかな春の海。
さらに南の土地から海を越えて吹く風も温かい。
船は港へ戻る。
私たちは、港町ジノバへ上陸した。
目の前に広がる翠色の海、この町の背後にはオリーブの実の丘。
船着き場には、商人の大きな船が泊まっている。その数はざっと30隻くらい。小型の舟はもうちょっとあるかな。
私の立っている港の近くは、そんな古い町並みだ。
キレイな白い漆喰の壁、そしてレンガ石の屋根。
自由都市より、建物の年季が入っているらしく、クリーム色に変わっている。
その向こうには、鮮やかな色の建物も見えている。
歴史はあるけど、町として潤っている感じがある。
「ありがとう! まず役場に行って、話を聞いてみますね!」
「おう! お嬢さん、気を付けてな!」
マーマンたちにお礼を言って、彼らの助言を頼りにジノバの役場へ向かう。
難しい状況は分かった。
その上で、私たちが何かできることがあるのだろうか。
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