第13話 痩のおくすり~四大自由都市同盟~(7)

 アゼルさんは私の頭を不器用になでる。


「この数か月、マリィとアルトはよくがんばった。法律上、賛成はしていなかっただろうが、大人の兵士たちはしっかり見ていたんだ。だから、上手く口を合わせてくれた」

「こわかった……」

「こわい思いをさせてしまったのは、自由都市に住む大人の1人として俺も謝る。だが君は、困った事件に立ち向かう勇気をもった強い娘だ」

「私が強い娘?」


 意外な言葉で、私は励まされる。

 アルトが私の足に寄って来た。すっかり信頼されている。

 それを見て、アゼルさんは確信したようだ。


「マリィはドラゴンと信じあえる関係を作った。それは誰でもできることじゃない。魔獣保護のプロの俺が言うんだ。間違いないぞ!」

「ありがとうございます! 私、またがんばれそうです!」


 私は笑顔で応えた。ようやく疲れた腰を、椅子に下ろす。

 アゼルさんはお湯を沸かした。

 暖かい部屋で、温かい紅茶を飲む。

 その後で、落ち着いた私は、寝台で眠りについた。


✝✝✝✝✝✝✝✝


 外の景色が移ろう。

 冬が色を戻し、春が芽吹いた。

 ここで初めてのお仕事を私は終えた。


 そして、私の相棒に、ベビードラゴンのアルトを迎えた。

 アルトは賢い子だった。ダイエットを春まで続ける傍ら、私と言葉の勉強をした。

 木の札が私に向けて、5つ出された。

 アルトは笑顔で私を見ている。


『M』『E』『R』『C』『I』

<ありがとう>


 魔法使い見習いの私は、胸が熱くなって目を潤ませた。

 他人から感謝されるのは、こんなにうれしいことだったのだ。


 春の日差しが、窓から零れる。

 そよぐ風はすっかり新しい季節の匂いだ。

 ふと私は顔をあげる。

 黄色い鳥が1羽、窓から飛び込んできた。その足には手紙だ。

 広げると、お師匠からと分かった。


『親愛なるマリィ

お仕事お疲れさま。無事におわってほっとしているよ。

新しい相棒ができたみたいだね。それはよかった。


さて、春になった。次の仕事をお願いするよ。

悪い病気が流行っていると、うわさを聞いた。

その南の地域を調べるために、すぐに向かってくれ。

聖教会アンジェリが次の目的地だ。

                お師匠のクロウドより』


 何でも知っているお師匠。どんな目と耳をしているんだ。

 ちょっと手紙を握る手に力が入る。

 手紙でほめられてうれしいけど、ずっと見られているようでこわい。


 すぐにアゼルさんに相談した。

 私は荷物をまとめて、トリクの街が見える丘に行くように彼に言われた。

 自由都市同盟の兵士たちが、広い丘に集まっていた。


 私と、右肩に乗るアルト。

 自由都市トリクの皆さんと、お別れのあいさつを私はした。

 代表して、アゼルさんが返事をする。


「行ってきます」

「さようならじゃないのが、マリィらしいよ。あぁ、行ってこい」


 すると、巨大な影が私たちに向かって降りて来た。

 空を飛んできたのは、成獣のドラゴンだ。

 風が吹き荒れて、ドラゴンが丘の上に降り立つ。

 自由都市の兵士たちは慌てて、武器を構えた。

 アゼルさんが、敵じゃないと手を頭の上で振った。


 聖教会の紋章をつけた、空ドラゴン便だ。

 なるほど、そっかそっか。

 広い丘から先に、どうやって移動するか、ここで私も分かった。

 お師匠はどうやら、お仕事先に話をつけてくれていたらしい。


 私とアルトを背中に乗せると、空ドラゴン便は飛び立った。

 春風の中、晴れ渡る空の上からは、絶景が広がる。

 新緑の山を越えて、南の端っこの半島が見え、碧い海が輝いている。

 聖教会アンジェリで、どんな事件が待っているだろうか。

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