第12話 痩のおくすり~四大自由都市同盟~(6)
冬になった。
外が雪でも散歩は続ける。運動を止めて元に戻ったら、努力が水の泡だ。
アルトは暖炉の傍で、ウトウト眠たいようだ。
アゼルさんと私は、楽しくお話していた。寒くなると、南の暖かい地方の話をしたくなる。
その時、ドアを押し開ける音がした。
冬の外套をはおった兵士だ。その手には、役人の指示書が握られていた。
家の中に、ぞろぞろと何人もの兵士たちが入って来たのだ。
「アゼル。この都市の法律で、ドラゴンの飼育は駄目だ。この指示書通り、お役人が怒っているんだ。ドラゴンには、国の外に出て行ってもらおう」
「待て、話し合おう。そうすれば……おい、やめろ!」
驚いて起きたアルトを、木の棒でたたきつけようとする、気の短い兵士がいた。
アルトが攻撃し返せば、人間に危害をくわえた魔獣という事実はできる。
ずるい大人。
反射的に、私の身体が動いていた。
私はアルトをかばって、木の棒で殴られた。
「い、痛いじゃない!」
「悪い獣をかくまうのか! 君も同じ罪だ!」
「頭に来た! どうして弱い者に優しくできないの! あんたたち良い大人でしょう! 雪の中に、子供を捨てるの? それも役人の命令だから?」
私の言葉で、大人の兵士たちはひるんだ。言葉を失い、お互いに目を見合わせている。
ただし役人はどうやっても、弱い立場の兵士たちに、ドラゴンを追い出す命令は変えないだろう。
一度出した命令を引っ込める、間抜けなことをしたくないだろうから。
私は命の重さは、役人も、兵士も、私たちも、ドラゴンも同じだと思う。
都市の法律が、ドラゴンの飼育を禁止だ。
抜け道に気づいた。
私はスッと立ち上がる。
一時的な怒りよりも、静かに理由を話すことに集中した。
「ドラゴンを飼育していた事実はないです」
「流石に、犬です……はもう通じないぞ」
開き直った私に返事をしたのは、あの時の兵士さんだった。
どうやら、このトリク自由都市で一番えらい兵士長らしい。
緊張感ある物言いなのは、彼も街の平和を守るお仕事中だからだ。
真剣なやり取りの場にいる私。
少しこわい。失敗したらと、ついつい思ってしまう。
お師匠はこういうとき、絶対にマイナス方向に引かない。
前に進む。明るい未来を信じる。
それが私たち、魔法使いだ。
私は勇気を出して口にした。
「アルトは私の家族です。家族に上も下もありませんよね。飼育という言葉は間違っています!」
お友達を作ったらどうだい。
お師匠の余計な一言が私を前に動かした。
お友達という言葉じゃ、アルトを守れない。
それじゃあ、もっと強い言葉で、アルトを私が守る。
絶対に目をそらさない。
すると、兵士長さんは、笑い声をあげた。
私はそれでも気を緩めない。最後まで話を聞かなきゃ、その意味が分からないからだ。
笑いが落ち着いてから、彼は真面目な顔で謝った。
「お嬢さんは魔法使いだね。それを知らず、トリク自由都市がひどいことをしたのを、心からお詫びする。すまなかった」
「えぇ、はい」
私の声は、何とも歯切れの悪い。
アルトが困り顔で、私たちの動きを見守っている。
私は顔に出さず、気持ちは困っていた。
呆気なく、口論が終わった。でも、これはどういう話なのだろうか。
兵士長さんは、アゼルさんと目を合わせると、理由を話し出した。
「魔法使いは相棒を持つんだろう。それがドラゴンでも珍しくはない話だ」
「まぁ、そうですよね。我々、竜騎士が見たら、魔獣を無理に従えているように見えるかもしれない。だが、マリィとアルトは家族のような関係だ。それは君たちも、ここ数か月間見てきて分かるだろう」
兵士長さんの理由を、アゼルさんが足した。
他の兵士たちも首を縦に振って、その理由に同意した。
間もなく、兵士長さんたちが、家から出て行く。
事件は解決した。
それでも、私は立っている両足に力が上手く入らない。まだ握ったこぶしが震えていた。
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