第2章 痩のおくすり

第7話 痩のおくすり~四大自由都市同盟~(1)

 不思議な緑色の川が流れる。

 それに木々が大きく、葉っぱも青々としていた。

 自然に囲まれた街。ここがベール自由都市だ。

 白い石壁と、赤茶けたレンガ屋根の家。頑丈な木の柱によって支えられているので、大きい家々でもつぶれることない。

 絵画で見たことあるような、鮮やかな色の風景に私は目を奪われた。


「うわぁ、すごくキレイな街だなぁ。1つ1つが大きく、町の色も強い。まさに外国って感じだぁ」


 私、魔法使い見習いのマリィ。

 金髪くせ毛で、眠そうな青い目、ちょっと大きいローブを羽織った12歳の女の子。

 お師匠の代わりに、お仕事を引き受けて、このベールにやってきた。

 私は初めての外国の旅。生まれてこの方、フランシス王国から出たことがない私には、全てが新鮮な出来事だ。


 でも、陸ドラゴンでの移動はもういいかなぁ。

 渋い紺色の硬いうろこでおおわれた、大きい身体で地をはって走る生き物。

 陸ドラゴンの見開いた黄色い目が、うれしそうな私の顔を映す。

 私は初めて見た陸ドラゴンに、目を輝かせていた。

 大きい生き物に、気持ちがたかぶるのは、年ごろの子では当たり前だ。


 その最高の気持ちは、自由都市ベールに着くころには、逆の最低の気持ちになっていた。

 実際に陸ドラゴンに乗ってみたけど、ジグザグ走行で振り落されないか、身体の小さな私はずっと冷や冷やした。

 気分にムラがある陸ドラゴンは、速くなったり、遅くなったり。

 それで私は、乗り物酔いを何度もした。


「陸ドラゴンさん、ありがとうねぇ……」


 旅の荷物とともに何とか、私は地面に降りた。

 そして、運んでくれた陸ドラゴンに、お礼のくん製肉をあげて、頭をそっとなでた。

 彼が地をはって去る。

 めまいがした私は、足元がおぼつかなくて尻もちをついた。


 いつまでも座っているわけにいかない。

 立ち上がった私は、石だたみの道を恐る恐る歩く。

 子供が1人で、大人の流れに乗るのは、緊張感でいっぱい。

 ベールは不思議な街で、泉や噴水がたくさんあった。私の乾いたのどを潤すのには十分だ。

 おいしい水を飲んで、もうひと歩きだ。

 そびえる時計塔が秒針を刻んでいる。私は時間を確認した。


「えぇと、ベール大聖堂はどっち?」


 眉だけを動かして、私は石みたいに硬い表情だ。

 そう。

 私は、かなりの方向オンチである。

 陸ドラゴンは道に迷わない。一方、フランシス国の娘である私は、外国の道が初めてなのだ。

 うーん。まぁいいか! 最初は失敗で良いだろう!

 私の気の短さは、こういうときには前向きに進む原動力になる。

 とりあえず前に歩こう。この気持ちは大事。

 それに同じ形の家ばかりだから、違う形の建物が、大聖堂だろうと想像はつく。


 その直感は正しかった。

 木の看板をみて、ここがベール大聖堂と分かった。

 平べったい館に、先が尖がった塔がくっついているユニークな建物だ。


 それよりも入口の壁画はすごいとしか言えない。

 宗教的な飾りであるのは、何となく分かる。

 明るい世界と暗い世界。そこにたくさんのお人形さんが立っている。

 私はどっちの世界にいるんだろうね。

 そんなことを考えつつ、大聖堂の中に入る。

 輝くガラス窓がたくさんある。その1枚1枚に神秘的な絵が描かれている。

 うわー、すごーい。ご丁寧なお仕事ですねぇ。

 私の国の教会や建物も良い感じの景色だけど、ここまで手のこんだ飾りの建物は初めてだ。


「やぁ、君がクロウドのお弟子さんかな?」

「あ、はい。私はマリィと申します。お招きいただきありがとうございます」


 強そうなゴツゴツした顔つきで、がっちりと大きい背中と腕、太ももをした男性が立つ。

 今は平和なときで、よろいを着ていない。

 だけど十分にその姿から、この人がお仕事の依頼人の竜騎士さんだと分かった。

 硬く握手を交わす。

 大きい手は指の1本1本も太くたくましい。日頃の訓練が厳しいものだというのが、私にも分かる。


「俺は竜騎士のアゼル=ジークフリートだ」

「ジークフリート卿とお呼びしてよろしいでしょうか」

「マリィさん、かしこまらなくていいぜ。アゼルのおっさんで問題なし! がっはっは!」


 ジークフリードは強い者の呼び名だ。それを名乗る人は限られた勇者だけ。

 私が身構えたのは、えらい人だと思ったからだ。


 でも、笑い飛ばされた。

 アゼルさんは何というか豪快な男性だ。


 子供は心配しなくてもいい場所と、私もわかって少し安心した。

 私は世間知らずの小娘なので、どこまでリラックスしていいか分からない。

 元々、気の強い性格が、まだ私を素直にさせてくれないのだ。

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