第63話 金に動かされるなんてっ!
このフードの人がラスウェル家の人ってことは、もう一人が誰かなんて明白なことだった。そんなことは私だけじゃなくて、多分ここにいる全員が分かっている事なんだと思う。
「あなた…っ。」
するともう一人のフード男は、一目散に走り出した。それに合わせてラスウェル家の人も走り始めたと思ったら、アルが風みたいに素早く動いてその人たちを追い始めた。
どうやらフードをかぶっていない人の中にも仲間がいたようで、走り出したアルを止めようとする人たちが数人いた。でも周りで見ていたカルカロフ家の軍の人たちが、その人たちを静止させていた。
「あなたたちも
「はいっ!」
私は数人いたテムライム騎士団員に、生意気に指示をだした。そして私はそのうちの一人の人のウマに、無理矢理乗った。
「リ、リア様…っ!」
「いいから、はやく!」
行かない方がいいことくらいわかっている。でも見届けないとって思う気持ちの方が大きかった。私はその衝動を抑えきれなくて、ためらう団員を無視してウマを走らせ始めた。
風のように走って行ったみんなに追いつくには、少し時間がかかった。でもやっぱりウマの足にはかなわないみたいで、しばらく走るとアルの背中が見えてきた。どうやらフード男たちは臨時の港の方に向かっているみたいだった。私は振り落とされないように必死に団員さんの腰にしがみついて、とにかく早く追いついてくれって願った。
「おい!!!」
臨時の港に先に着いたフード男が、海に向かって大きな声を出した。その後ろではラスウェル家の数人の人たちがアルや軍の人たちに向けて、大きな剣を向けていた。
「おい、海賊!!」
フード男は誰もいない海に向かって、大きな声をだした。するとその声に反応したのか、遠くの方から小さな船がやってくるのが見えた。
あれはきっと、レイヤさんの船だ。
「おい、海賊!俺を乗せろ!」
その男は近づいてきたレイヤさんに大きく手を振って、必死に大きな声を出した。するとその動きで、かぶっていたフードが脱げた。
「あなたね…っ!」
ただ隠れるようにして見ていただけだった私は、ついに大声を出してそいつを呼んでしまった。するとそいつは恨めしい顔をして、こちらを振り返った。
「どうだ。お前の作った道を俺が使う気分は…っ!」
フード男の正体は、やっぱりイグニアだった。この数日間逃げ切っていたせいか見たこともないくらい髪の毛はぼさぼさで、服もどことなく汚れていた。虚勢を張っているけど"元王様"には全く見えないほど、みじめな姿をしていた。
「おい、金は払う。俺を運べ。今すぐにだ。」
そして言っていることは相変わらずクソだった。こいつらはやっぱりウィルさんと話していた通り、海外に逃亡しようとしている。
「いいっすよ!」
「ちょっと、レイヤさん…っ!」
するとそいつが誰なのか知らないのか、レイヤさんはいつも通り軽々しく言った。振り返って私が焦っている顔を見たクソは、ニヤリと笑って私を見ていた。
「すんません。」
レイヤさんは手を差し伸べるクソの手を掴んだ。そして私の方を見て、軽々しく謝った。
「ねぇ、そいつが誰だか知ってんの?!」
「会話聞いてりゃなんとなくわかるっす。」
レイヤさんはクソの手を握ったまま、こちらを見て笑った。笑っている場合じゃないし、金に動かされてそんなやつを運ばないでほしい。って言うか金を払うって言ってるのだってあてにならないし。
「レイヤさん…、だったら…っ!」
「だから。」
私の話を遮るように、レイヤさんが言葉を発した。
アルは二人に近づこうと何とか頑張っているんだけど、思っているよりフードの取り巻きが多いせいで苦戦しているみたいだった。
「だからこうするんっす。」
すると私の言葉を割ったレイヤさんが、クソの手を引っ張った。そしてそのまま腕をギュっと掴んだと思ったら、びっくりするくらい軽やかに回転しながら、自分の体ごとクソの体も回した。
一瞬の出来事すぎて、何があったのかよく分からない。でも次の瞬間私の目に飛び込んできたのは、レイヤさんの手によってアイツが地面へとたたきつけられている光景だった。
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