第62話 まさか…っ!
「さて!私もがんばりますか~っ!」
エールをもらってさらにやる気が出た私は、腕をブンブン回して今の気持ちを表現した。するとエバンさんはクスクスと笑って、「そうだね」と言った。
「早速動こうか。よし、行くぞ。」
「はっ!」
それからエバンさんはテキパキと騎士団員たちに指示を出して、主要な道路の整備に入った。私はと言うと、また地図を広げながら今日入ってきた荷物の仕分けとかこれから入って来るものの仕分けとかをしていって、アルは私の言う通りに団員に指示を出してくれた。
☆
「んんん~~~っ!つっかれたぁあ!!」
そんなことをしているうちに、すぐに辺りが暗くなってきてしまった。ルミエラスから色々な技術が入ってきて最近は国が発展し始めたとはいえ、また前世みたいに夜でも街が明るくなるわけではない。
「周りも暗くなってきたし、また明日にするか。」
伸びをする私に、アルが言った。私も「だね」と言ってそれに同調して、とりあえずある程度の片づけをすることにした。
「今日はどうする?泊ってくか?」
「子どもたちも来てるし、今日もいったん帰るね。」
本当は泊まって行きたいくらいなんだけど、今日は子どもたちとの時間を過ごしたい。行ったり来たりはしんどいけど、なにより今日は喜んでいるみんなの顔が見て安心したい。
「そっか。念のため、いつでも泊まれるようにもしてあるから。」
アルは片づけをしながら、やっぱり愛想のない言い方で言った。でも私も伊達に長い間彼と付き合っているわけではない。どんな言い方をされたってアルの言葉に優しさを感じられる私は、「ありがとう」と言ってもう一回だけ伸びをした。
「わぁ。夕陽がキレイっ!」
それからアルと一緒に街の方に帰って来ると、ちょうど海に太陽が沈みかけているころだった。真っ赤に燃える夕日は、やっぱりエバンさんの瞳の色に似ている。
「ホントだな。」
興奮している私を見て笑ったアルも、少しまぶしそうな顔をして夕陽を見つめた。もっと近くで見たくなった私は、走って海の方へと行ってみることにした。
「転ぶなよ~!」
「はぁいっ。」
海の方では、大きな船からの搬出作業が今も行われていた。真っ赤な夕陽をバックにせわしなく働く人たちのシルエットは、写真を撮りたくなるくらいにかっこいい。
「燃えてる…。」
本当に燃えてるみたいな色の夕陽が、まるでリオレッドの人たちの気持ちを表してるみたいだと思った。じっくり見つめていると涙がでそうになったのは、どうしてなんだろう。
「今は何運んでるんだろう。」
キレイな景色を見て泣きそうになるんなんて、私らしくない。私もこの夕陽みたいに気持ちを燃やして頑張らなきゃと思って、私はもう一歩船の方へと近づいてみることにした。
「リア、邪魔すんなよ。」
すると追いついてきたアルが私に釘を刺すように言った。涙も忘れてその言葉にムッとした私は、その場で振り返ってアルに文句を言おうとした。
「危ない…っ!」
「きゃ…っ。」
するとその時、私の右方向からやってきた人にぶつかってしまった。荷下ろし作業の真っただ中だから割と人も多いのに、いきなり足を止めて振り返ってしまった私のせいだ。
ぶつかった反動で尻もちをついたのは私の方だったけど、顔を上げてぶつかった人に「すみません!」と謝った。
「…。」
するとその人は何の言葉も発することなく、転んでいる私を無視して進行方向に進み始めた。確かに私が悪かった。でも私は転んでるんだから、「こちらこそ」くらい言ってもいいだろうって、早速文句が浮かんできた。
それにフードなんかかぶって、物騒な…。服装も作業している人って感じがしないし、そもそもこんなところで何やってるんだろう。
「ねぇ、あなた…。」
なんでか分からない。でもなんでだろう。私は去ろうとするその人の腕を掴もうとした。するとその人の横にいた大きなフードの人に、私の手は振り払われた。
「いたっ。ちょっと…っ!」
むきになった私は、今度は大きな人の腕になんとかしがみついた。するとその人は私を振り払おうと、大きく腕を動かした。
するとその動きで、かぶっていたフードが少しずれた。その隙間から見えた顔を、私はよく知っていた。
「…あなたっ!!」
誰だか認識した私は、その腕を引っ張って立ち上がってさらに強くしがみついた。するとその人は大きく腕を振り上げて私ごと持ち上げた後、そのまま腕を振り下げた。
「…きゃあっ!」
「リアっ!」
一瞬の出来事だった。私はまた尻もちをついて、そしてその人のフードはその動きで完全に脱げてしまった。
「お、お前…っ!」
アルはその人の顔を見て、大きな声を出した。
それもそのはずだ。だってフードの下から顔を見せたその人は、今回あのクソの指示のもと動いてカルカロフ家に敗北を期した、ラスウェル家の家長さんだったんだから。
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