第61話 何よりも力の出る"ガンバレ"
「アル!おはよ!」
「おはよ。」
そしてその2日後、滞りなくテムライムの騎士団がこちらにやってくることになった。私とエバンさんはそれより先にキルエアールに入って、船の到着を待った。
「お、来た来た。」
あたらしく港にする場所の整備は、この2日間である程度アルがしてくれていた。船が停泊して荷物と人を降ろせるくらいのスペースがしっかり確保されていることを確認していると、遠くの方から船がやってくるのが見えた。
「乗ってる?」
「乗ってる。」
そしてその船には、ラルフさんと子どもたちが乗っている。
まだあのクソは捕まっていないけど、ある程度の安全は確認できたし、それに子どもたちにはやっぱり少しでも早く今の状態を見てほしかった。ショックを受けたとしても、受け止めてほしいと思った。
まだ少し早いかなとも思うけど、とくにカイとケンには見せるべきだって自分に言い聞かせた。すると私の気持ちなんて知るはずもなく、子どもたちが船の上で騒いでいるのが見えた。
「楽しそう。」
「ね。」
微笑ましくその光景を見つめていると、いち早く私たちに気づいたであろうラルフさんが、こちらを指さして子どもたちに何かを言った。
「パパ~~~~ッ!!!!」
「マ~~~~マ~~~~~ッ!!!!」
すると子どもたちは船の上から大声で私たちを呼んだ。
私もエバンさんも大きく手を振ってそれにこたえて、彼らが到着するのを待った。
「ママッ!すごいよ!」
「すんごく早かった!ビュンッ!って!」
「あっという間だったよ!!」
思えばレイヤさんの船に子どもたちが乗るのは初めてのことだった。子どもたちは船を降りると同時に興奮冷めやらぬ様子で、船のすばらしさを全力で伝えてきた。
「お疲れ様。」
「ラルフ様。ありがとうございます。」
子どもたちと騎士団を引き連れてここに来てくれたラルフさんに、丁寧にお礼を言った。するとラルフさんは少し楽しそうな声で「いや」と言った。
「俺も早い船ははじめてだったから、楽しませてもらった。」
本当に楽しそうな顔で言うもんだから、おかしくなって笑ってしまった。そうしている間に次々と騎士団員さんたちが降りてきて、みんなエバンさんと私にビシッとあいさつをしてくれた。
「ラルフ様。」
するとその時、後ろからやってきたアルが恭しく礼をした。アルは私以外と接している時は、別人みたいにまともな男性に見える。
「遠路はるばる、ありがとうございます。」
「久しぶりだな、アル。」
ほらね、やっぱり。
私がそんな失礼なことを考えているなんて知るはずもなく、二人は大人の挨拶をしていた。ラルフさんは一歩アルに近づいて、そして肩にポンと手を置いた。
「すっかりたくましくなったな。リオレッドもこれなら安心だ。」
そう言えばリオレッドでエバンさんに出会ったあの日。アルもエバンさんもラルフさんに怒られてたっけ。今考えてみれば二人ともかなり情けなかったなって思い返していると、少しおかしくなって笑ってしまった。
「アル~~~っ!」
「来たよ~~~!」
「お前らっ!よく来たな!」
ちょどその時、アルに気づいた子どもたちが飛びつくようにしてアルの方に走って行った。アルがルナを抱き上げて高い高いをすると、ルナは楽しそうにキャッキャと声を出して笑っていた。
「俺は子どもたちを連れて一旦レルディアに行ってくる。マージニア様に挨拶もしなきゃいけないし、それにゾルドの顔も見たいしな。」
子どもたちがアルと騒いでいる間に、ラルフさんは言った。
子どもたちをラルフさんにお任せするのはすごく申し訳ない気がしたけど、今日はここを離れるわけにはいかない私達は、素直に「お願いします」と言った。
「みんな、ママもパパも夕方には帰るから、それまでじぃじと待っててね。」
「はぁい!」
「こっちのじぃじとばぁばにも会えるよね?」
子どもたちは数日ぶりに会った両親とまた離れる事なんて全く気にしていない様子で、楽しそうに言った。そう言えば最近よくリオレッドに連れてきてはいたけど、パパやママとはあまり遊ばせてあげられなかった。
「もちろん。メイサも待ってるはずだからね。」
「やった!」
「
「ルナも~っ!」
今回は何も気にすることなく、会いたい人に会って食べたいものを食べてほしい。喜んでいる子どもたちを微笑ましく思ってみていると、ケンが私の方に寄って来て少し真剣な顔で「ママ」と言った。
「僕、じぃじのお手伝いするから、ママは心配しないでね。」
「ケン…。」
こんなことを言えるようになっていたなんて。
私を気遣ってすごく優しいセリフを言ってくれたことが嬉しくなって、私は思わずケンをギュっと抱き締めた。
「僕も!ママもお仕事頑張ってね。」
得意げに言ってくれたカイもまとめて抱きしめた。すると二人は照れた顔で「痛いよ」と言って、私から離れた。
「よろしくたのむね!」
「うんっ!任せて!」
「じぃじ、行くよ!」
「あ、ああ。」
半分ラルフさんが連れられるみたいにして、子どもたちはレルディアに向かっていった。何よりも力が出る"ガンバレ"をもらった私も、「よし」と言って気合いを入れなおした。
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