第59話 臨時の道
「リア、平気?」
しばらく歩いた頃、エバンさんが少し心配そうに聞いた。私は彼を安心させるためにも、笑顔で「うん」と答えた。
「とっても驚いた。私が知ってる街とは別の街みたいだった。」
「そっか。」
エバンさんはもしかして、私が無理をして明るく振舞っていると思っているのかもしれない。その空気を感じ取った私は、エバンさんには自分の気持ちを正直に伝えておくことにした。
「でもね、街の人はみんな前を向いてた。なのに私がショックを受けて立ち止まってられないでしょ?」
「そうだね。その通りだ。」
私の顔を見て多分無理をしてないってのが分かったのか、エバンさんも曇りなく笑って言ってくれた。私もエバンさんと同じように笑って、「でしょ?」と得意げにいってみせた。
「それにね、昨日おじ様と約束したんだ。起きた時、元通りにしておくからって。だから頑張らなきゃ。」
「無理はダメだからね。」
エバンさんは少し厳しい声で言ったけど、顔はとても穏やかだった。頑張らなきゃいけないけど倒れるまで働いてはいけないなって自分に言い聞かせるように、「はぁい」と素直に返事をした。
「ごきげんよう。」
「お嬢様!来てらっしゃったんですね!」
「おかえりなさい。」
楽しくお話しているうちに、あっという間に港に到着した。港では忙しそうに動いているパパの会社の人たちが私を出迎えてくれて、みんなが暖かく"おかえり"って言ってくれた。
港も街中と同じように壊れているところが多々あったけど、それでもここが優先的に直されているような感じがした。物流の拠点となる港をまず直したのは、きっとパパやウィルさんの起点に違いない。
「どうです?物資の運搬状況は。」
「船から運び出すところまではいつも通りでいいんですが、なんせ道がふさがっているところがあるせいで、近隣の街に上手く回っていません。迂回していく必要があるので、届けるのにも時間がかかってしまいます。」
その起点のおかげでどうやら港はいつも通り動ける状態にはなっているみたいだったけど、道がふさがっていてはもちろんそれを別の街に運ぶことは出来ない。
物資が届かないと進められる復興も進められなくなるから、道の確保も優先的にしないとなとぼんやり考えた。
「テムライムの軍を、道の整備のためしばらく派遣しよう。」
するとエバンさんが、私が言葉を発する前に言った。驚いて見上げてみると、彼はすごく得意げな顔で笑っていた。
「い、いいの?」
テムライムからは物資の支援をしているわけだし、これから大工さんの派遣も行う予定だ。その上軍を派遣までして大丈夫かって不安になっていると、エバンさんはもっと得意げな顔になった。
「大丈夫。僕を誰だと思ってんの?」
そうだった。この人は今テムライムの"騎士王"で、軍を動かす権限を持っている人だった。そのエバンさんが大丈夫って言うんだから、きっと大丈夫なんだ。
あまり長居はさせられないけど、せめて主要の道が通るまでの支援をしてもらおうと考えて、まだ得意げな顔をしているエバンさんに「ありがとう」と言った。
「地図ってありますか?」
「もちろんです。」
そしてすぐに、パパの会社の人に地図を持ってきてもらった。私はそれを近くにあった作業台に広げて、この周辺の道路状況を一番把握している人を連れてきてもらった。
「この周辺で道がふさがっているのがどこなのか、印をつけてください。」
そしてふさがっているという道に、印をつけてもらった。それをじっくり見ていると港から伸びている主要な道のいくつかがふさがっているという事がわかって、確かにこれでは運搬がうまくいっていなくてもおかしくないなって思った。
「ここを臨時の港にしましょう。」
しばらく考えた後、ふさがっていないという道で使えそうなところと流通性を考えて、私は一つの海岸に丸を付けた。するとみんなは驚いた顔で私の方を見ていた。
「そしてテムライム軍が派遣され次第この道をまず整備をしてもらって…。その整備が終わるまで、この港にはキルエアール周辺の街への物資を届けてもらうようにします。」
キルエアールは大きな街だからたくさん物資がいるのはもちろんだけど、周りの小さな街にだってもちろん必要なものがある。主要な道が出来上がるまで港を作って、物資を分けて運べばそもそも道がふさがっていても物資を届けることができる。
「なるほど。そうしよう。」
誰よりも先に返事をしてくれたのはエバンさんだった。
そして私が今後の段取りをしている間に「レイヤさんに伝えてくる」と言って、海の方へ歩いて行ってしまった。
―――よし。第一歩だ。
私のお手伝いがようやく始動した感じがした。
前向きなことを全力で考えられるのはとても久々な気がして、まだ何も出来ていないって言うのにワクワクしている自分がいたのは気のせいではないと思う。
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