第58話 私が下向いててどうするっ!
「それじゃ、行ってくるね。」
「うん。気を付けて。」
そしてその次の日。私は宣言通り早速動き始めた。
って言ってもこの国で私に出来ることは限られているんだけど、エバンさんの言う通り色んな所に行って顔を見せることで、みんなを励ませると思ったから、滞在している間はいろんな場所に行くことに決めた。
「今日はキルエアールだっけ。」
「うん、そうだよ。」
今日はエバンさんとカルカロフ家の軍の皆さんに連れて行ってもらって、キルエアールに行くことになっている。どうしてキルエアールを選んだかって言うと、今回のことで壊滅的な被害を受けているらしいから早く顔を出したかって言うのと、それと…。
「アルはちゃんと働いてるかしら。」
「ふふ。そりゃもうバリバリ働いてるはずだよ。」
今その辺りにアルがいるんじゃないかって、ウィルさんが教えてくれたからだった。無事だって言うのは分かってるんだけど、やっぱり顔を見るまではどこか安心できない。
「私ね、キルエアールがすごく好きなの。」
「海があるから?」
「バレた?」
好きな理由を言い当てられて、少しびっくりした。それなのにエバンさんはクスクスと笑って、「分かりやすいな」と言った。
「船と海がある場所が好きだからね、リアは。」
「否定は出来ない。」
好きだってのもあるし、それにもちろん港町としての機能がちゃんと果たせるのかを確認するためでもある。もっともらしい理由を考えながら、私は少しでも早く海のにおいを感じられるよう、流れてくる空気を体いっぱいに吸い込んだ。
☆
「さぁ、行きましょうか。」
「はい!」
キルエアールはレルディアから割と近くの街だから、すぐに到着してしまった。近づくにつれてやっぱり海のにおいが香ってきて、それだけでもテンションが上がっている自分がいた。
「ここも…。」
ウマを置いて街に一歩足を踏み入れると、やっぱり街中は見るも無残な形に変わっていた。少し被害を受けているところはこれまで見てきたけど、知っていた街がまるで別の街かのように変わっている姿に、思わず言葉を失ってしまった。
「リア、行こう。」
「う、うん。」
そんな私の手を取って、エバンさんはカルカロフ家の騎士の方が案内してくれる方へと気丈に歩き出した。力強い足取りを見ていると、私もしっかりしなくてはって気持ちになってきた。
「みなさん、お久しぶりです。」
街の中心部では、カルカロフ家の騎士をはじめ、地元の人であろう人たちが忙しそうに片づけや街の整備をしていた。私は衝撃を受けているのをしっかりとかくして、笑顔でその人たちに挨拶をした。
「リアちゃんじゃない!」
「お嬢様…っ!帰ってきてたんですね。」
「遠くまで来てくださってありがとうございますっ!」
私の姿を見つけた街の人たちは、口々に挨拶をしてくれた。自分たちの慣れ親しんだ街がこれだけ壊れているって言うのに、誰一人として暗い顔をしている人なんていなかった。
なに、考えてんだ。私。
私がいちいちショック受けててどうする。
励ますためにここに来たんでしょ?
それに昨日おじさんと約束したじゃない。
起きた頃には、元通りにするって。
「私にも、何かお手伝いできることはありませんか?」
私がいちいち驚いて、下を向いているわけにはいかない。
そう思いなおした私は、笑顔で住民たちに聞いた。すると彼らは少し困惑した顔をして、「でも…」と言った。
「リアちゃんに手伝わせるなんて…っ。」
「手伝いに来たんだから、お仕事が欲しいです。」
すごく遠慮したセリフを言った彼らにもう一度笑いかけて、はっきりと言った。するとやっと笑顔になったみんなは「ありがとう」と言って、私に出来ることがないかなにやら話し合ってくれているようだった。
「そ、それじゃあ、海の方に行ってみるのはどうだろう。あっちも片付けないといけないところがたくさんあるし、それにテムライムからの物資も届いてるはずだから。」
しばらく話し合った後、一人がそう言ってくれた。
お手伝いをするとは言え海の方に行けるってことが少し嬉しかった私は、あふれ出してくる笑顔を隠すことなく「了解ですっ!」と元気に返事をした。
街が早く復興するためには、やっぱり物の流れ、"物流"が円滑に行くことが大切だ。さっきまで落ち込んでいたはずの私は半分ウキウキしながら、エバンさんと「行こ」と言って腕を組んで、港の方へと歩きはじめた。
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