第57話 今回だってきっと、女の勘が勝利する



「おじ様。リアだよ。」



おじさんのベッドの横には、椅子が置いてあった。私はそこにゆっくり腰掛けながら、ただ寝ているだけみたいなおじさんに声をかけた。



「ねぇ。おじ様ってさ、結構ワッフルせんべい好きでしょ?」



そして唐突に、気づいていたけど今まで言わなかったことを言ってみた。もちろん反応はないけど、おじさんはちゃんと聞いている気がした。



「昔はね、顔が怖くて何考えてるか分からないって思ってた。でも最近は分かるようになったの。怖い顔してても、何考えてるか分かるようになったの。」



最初は本当に怖かった。今すぐに襲われるんじゃないかって思ったほど怖くて、確かパパの後ろに隠れていた気がする。でも今ではおじさんが何を考えているか、すごくよく分かるようになった。



ワッフルせんべいの香りをかいだ時、おじ様嬉しそうだった。それに食べてる時もね、すごく楽しそうだった。」



私がおじさんに慣れたからなんだろうか。それともおじさんが私に慣れてくれたからなんだろうか。考えても答えは出ないけど、多分その両方な気がする。



「みんなには秘密にしといてあげる。でももしかして言っちゃうかもしれないから、そうなったらちゃんと止めてくれなきゃダメなんだからね。」



思わず私が口を滑らせそうになった時、胸まで響くみたいな低い声で「リア」って呼んで止めてくれなきゃ、恥ずかしいことみんなにばらすからね。私しか知らないおじさんのこと、国中にお話ししてやるんだから。



「おじ様。全部終わったんだからさ、ワッフルせんべいのお店も元通りになるよね。すぐに。」



カミラさんのお店も、被害を受けていた。

でもきっと、すぐに元通りになる。だってみんなちゃんと前を見て歩いてる。今日よりもっといい明日を作ろうって頑張ってる。



「私も頑張ってお手伝いするから、待っててね。」



おじさんのためにわがままいって、ワッフル店から優先に直してもいいよ。自分が食べたいだけだってのは秘密だけど。



「それでね、ちゃんと見るんだよ。おじ様の目で元の姿に戻ったこと、ちゃんと確認するんだよ。」



私がここに来て現状を話すことは簡単だ。

他の人だって毎日何をしているのか、おじさんには報告に来ているのかもしれない。でもおじさんはちゃんと、自分の目で見なきゃダメだ。だっておじさんが、当たり前じゃない当たり前の幸せを守ったんだから。




「また一緒に食べに行って、ちゃんと香りをかいで、それでちゃんと味わうの。それまで私、ワッフルせんべい食べないから。おじ様起きなきゃ、私ワッフルせんべい食べらんなくなっちゃうよ。」



おじさん。私ね、神様なんて信じてない。

でもね、一回だけ会ったことがあるの。天使って名乗る、変なやつに。


そいつは今考えてみても胡散臭いやつだった。でもあいつの言う通り私たちは"適材適所"の場所に転生して、そして高貴な生というものを生かしてもらってる。

この世界にはまだ、わたしにはまだ、おじさんが必要なの。だからあいつがまだおじさんを連れて行くわけないって、信じてるからね。



「そんなの絶対いや。だからすぐに起きて。」



ワッフルがこのまま食べられないなんて、そんなのは絶対に嫌。でも多分、そんなことにはならない気がする。何度も的中させてきた女の勘がそう言ってるんだから、きっと今回だって的中するに決まってる。



「大好き。」



おじさん。私、おじさんのこと本当にお父さんみたいに思ってる。誰かのために一生懸命働くパパと同じように、口下手だけどいつも誰かを守るために一生懸命なおじさんのこと、本当に尊敬している。



「おじさんもさ、私のこと、娘と思ってくれてるよね。だったらお願いだから、よく頑張ったなって褒めてよ。私、褒めてもらうために頑張ったんだよ。」



いつだって私の原動力はパパだった。そしてパパに褒めてもらえるのが嬉しくて、私はここまで頑張ってきた。おじさんのことを本当のお父さんみたいに思っている今、おじさんにだって褒めてもらえなきゃ気が済まない。



「待ってるね。ずっと。」



泣かないよ。泣き虫な私だけど、これはお別れでも何でもない。ただの挨拶なんだから、泣かない。涙は次褒めてもらった時まで、取っておくから。



「じゃ、行くね。頑張ってくる。」



私はあっさりと立ち上がって、笑顔でおじさんに言った。おじさんはやっぱり穏やかな顔で、しっかり息をして眠っていた。



「行ってきます!」



家を出るときの挨拶みたいに、おじさんに言った。

おじさんに宣言した通り、彼が起きた時までに元通りにしておかなくちゃ。おじさんに会ったことでもっとやる気が出た私は、外で待っていてくれたエバンさんの手を取って「行こ!」と言って、元気に走り出した。

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