第56話 当たり前に会える幸せ
「リア。父さんに、会いに行ってあげて。」
会議がひと段落したころ、ウィルさんが悲しい目で言った。マージニア様もそれにうなずいて、「今すぐにでも」と言った。
「きっとリアにも会いたがってる。」
「うん。」
ウィルさんの言葉に、私は素直にうなずいた。おじ様がどんな姿になっているか知らない私は、半分少しだけ怖いって思っている気持ちを抱えたままみんなに丁寧にあいさつをした後、エバンさんと一緒に会議室を出た。
「リアとこの道を歩くのは初めてじゃない?」
ウィルさんやマージニア様は馬車で送ると言ってくれたんだけど、ゆっくり景色を見たかった私はそれを断った。すると私に付き合って歩いてくれているエバンさんが、とても優しいトーンでそう言った。
「確かに、そうかも。」
「ここは君の思い出の道でしょ?」
「うん。」
子どもの頃毎日、私はメイサとここを歩いていた。いつもきれいで明るくて、みんなが暖かく出迎えてくれるこの場所が大好きだった。
「毎日メイサと手をつないでここを歩いてた。そうするとたまにね、仕事に向かうおじ様やジルにぃに会う事があったの。」
この道を歩いていると、遠征や訓練に行くおじ様やジルにぃに出くわすことが会った。いつだってたくさんの人を連れて勇ましくそしてたくましく歩いてくる姿は、本当にかっこよかった。
「もしかしたら今日は二人に会えるかもって思って歩くのが、本当に好きだった。」
いつも忙しそうにしていたから、二人はだいたい家にいなかった。そんな二人にもしかして会えるかもって思いながら歩くのは、すごく楽しかった。そして本当に会えた時、想いが通じたんだって気持ちになってすごく嬉しかった。希望にあふれているこの道が本当に、大好きだった。
「すぐに元通りになって、きっとまた同じ気持ちで歩けるよ。」
私の落ち込んだ気持ちを察するようにして、エバンさんは明るく言った。私はまたエバンさんの根拠のない言葉に励まされながら、「うん」って明るく答えてみせた。
☆
「リアちゃん。待ってたわ。」
カルカロフ家に着くと、テレジア様がお出迎えしてくれた。私はやっぱり女神みたいに美しい彼女をギュっと抱き締めて、再会を噛み締めた。
「テレジア様。ご無事で、本当に…っ。」
「リアちゃんのおかげよ。本当に、ありがとね…っ。」
女神は匂いまで女神みたいに美しくて可憐だった。肌でこんな風に女神の香りを感じられるのだってあたりまえじゃないんだよなって、今回のことを経験したからこそ思える。
「ケガはないですか?ご飯も食べられてます?子どもたちは?デイジー様も…。」
「うん、大丈夫っ。私たちはみんな元気。毎日もりもりご飯も食べてるよっ!」
特に私はテムライムにいるんだから、みんなに頻繁には会えない。
毎回普通に会えるってことに感謝しないといけないって知れたのは、唯一よかったことなのかもしれない。
「リアちゃん。お父様が待ちくたびれてらっしゃるわ。行ってあげて。」
そしてテレジア様はまだ再会を噛み締めている私を、中に入るよう促した。私は少し緊張しながら「はい…っ」と何とか返事をして、執事さんの後をついて家の中に入った。
「お医者さんはいつもここにいてくれてるの。状態は安定しているんだけど、まだ目は覚めてなくて…。」
すごく悲しげな眼で、テレジア様が今の状況を教えてくれた。
分かってはいたことなんだけど、やっぱり現実が受け止めきれていない私は「そうですか」としか言えなかった。そしてそれからも重い足を何とか前に進めて、おじ様がいるという部屋へと歩いた。
「ここにいらっしゃるわ。」
「はい。」
おじ様の部屋の前で、テレジア様は言った。私は扉の前で大きく深呼吸をして、気持ちを整えた。
「リア。外で待ってるから、ゆっくりお話ししておいで。」
するとそんな私に、エバンさんは優しく言った。私はエバンさんの方を振り返って、なんとか「ありがとう」と言った。
そして覚悟を決めて、静かにドアを開いた。目の前に置いてある大きなベッドの上には、頭に包帯を巻いたおじ様が寝ている姿があった。
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