第55話 これからのこと


「それじゃあリア。ひとまず現状を報告させてもらうね。」

「はい。」



席について早々に、ウィルさんが言った。机の上にはリオレッドの大きな地図が広げられていて、そこにはところどころ印がされていた。



「まず壊滅的な被害を受けているのが、この赤く丸がしてある地域だ。その中でも青丸がしてある場所の人々は、今テムライムで受け入れてもらっている。」



赤い印がつけられているのが20か所くらい、そして青がついているのがその半分ってくらいに見えた。たくさん難民を受け入れられたって思っていたけど、まだまだ困っている人はたくさんいるんだなってのがよく分かった。



「赤丸のみがされている場所を優先的に支援し、その次に青丸の場所を復興したのち、テムライムから呼び戻すような形を取るのが理想的かなと思うんだけど…。」

「かまいません。そうしましょう。」



遠慮がちに言うウィルさんの言葉を、私は力強く肯定した。そんなことは言われなくても、きっと王様もそうするつもりだと思う。自信を持ってうなずくと、ウィルさんは「本当にありがとう」と笑顔で言った。



「あとこの黄色は、壊滅的ではないが被害を受けている場所だ。こちらに関しても復興支援を回さなくてはいけない。」



そして黄色の丸がされている場所は、赤丸より多いように見えた。もうリオレッドのほとんどの場所に何かしらの支援が必要になって来るんじゃないかなって思うほどだった。



「とにかく、人手が必要ですね。」



つまりそれは人手が必要ってことを意味していた。

この世界に来て最初に直面した問題に、もう一回直面することになるなんて。でも人手が必要なんてことはここに来る前から目に見えていたから、私はすで王様とそのことを話し合って来ていた。



「テムライムから、大工仕事が得意な人たちを派遣しましょう。」



ワシライカやカワフルの人たちをリオレッドに派遣することの許可は、すでに得て来てある。自信を持って伝えると、ウィルさんはとても申し訳なさそうな顔をして「でも…」と言った。




「大丈夫です。その方たちは今リオレッドの方々が生活している場所を、2~3日で作り上げる技術を持った方々です。きっと力になれると思います。」

「いや、そういうことではなくて…。」



ウィルさんが、"そこまでしてもらっていいものか"って思っていることを本当は分かっていた。見当違いのことをわざと言ったのは遠慮をする気持ちを少しでもなくしたかったからなんだけど、あまり効果がなかったらしく、ウィルさんもマージニア様も浮かない顔をしていた。



「その方々と言うのが、リオレッドで私を襲った人たちなの。」



だからちょっと空気を変えようと、少しびっくりさせることを言ってみた。すると彼らは私の思惑通り驚いた顔になって、言葉を失っていた。



「奉仕活動をしてほしいと要請したらするようにと約束しているから、お金の心配はいらないわ。もちろん生活が普通に送れるだけの食糧や物資はテムライムから送るし。」



彼らにはあの時、奉仕活動にちゃんと参加するよう約束をした。それに今ではちゃんと頼んだらやってもらえる信頼関係が出来ているって、私は思っている。だから心配することなんて何もないと伝えると、ウィルさんはやっと少し笑ってくれた。



「ありがとう、本当に。助けられてばかりで申し訳ないよ。」

「そんなことありません。」



恩返し。

これは今までリオレッドが私にもたらしてくれたたくさんのことに対する、恩返しに過ぎない。



「いつかテムライムがピンチの時は、よろしく頼みます。」



そしていつかテムライムが何かピンチを迎えた時、今度はこちらが助けてもらわないといけない日が来るかもしれない。現に貿易赤字に陥った時は助けてもらった実績もあるわけだし、申し訳なく思う必要なんて何一つない。


自信を持ってそう言うと、マージニア様は大きくうなずいて「もちろんです」と言ってくれた。



「あと…。イグニア様は捕まったのでしょうか。」



それからしばらくどのように支援をしていくかを詳しく話し合った後、一番気になっていることを口にした。するとウィルさんは今日で一番厳しい顔になって「いや…」と言った。


「それがまだなんだ。前王と家の残党が、今でも逃げ回っている状況で…。アルは被害を確認しながら、手掛かりを探している。」

「なるほど。」



だからアルの姿が見えないのか。

みんな前に進んではいるんだろうけど、ヤツが捕まらないことには心からスッキリすることは出来ないなって思うと、ため息が出そうになった。



「どこに潜んでいるか分からないから、リアも十分注意はしておいて。」

「それは大丈夫です。」



注意喚起をするウィルさんの言葉に横から割って入ったのはエバンさんだった。あまりにも食い気味に言ったもんだからなんだかおもしろくなって笑っていると、ウィルさんも「そうだったね」と笑っていた。



「でもリオレッド国内に逃げられるところなんて限られてますよね。」

「そうなんだ。だから捕まるのも時間の問題だとは思うんだが…。」



リオレッドなんて小さな島国だし、今はカルカロフ家の軍がそこら中にいるんだろうから、そう長くは逃げていられないと思う。ウィルさんの言う通り捕まるのも時間の問題だろうなお思う。



「もしかして、"密輸"されようとしてたりして。」




国内に逃げ場がなくなったとして、だとしたら次考えうるのは、国外逃亡…?



「あり得るね。」

「ですね。」



まさかなと一度は思ってみたけど、もし私がアイツだったとしたらすでに海外逃亡をしようとしていると思う。だったとしたら逃げる前に捕まえないと余計捕まえにくくなるなと思った。



「復興も進めつつ、海岸の警備も強化しておこう。」

「はい。」



早く捕まってみんなが心から笑顔になれますように。私のお願いくらいでどうにかなることではないって分かってはいるけど、そう願わずにはいられなかった。

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