第54話 王様になっても相変わらずの彼
「失礼致します。」
「は、は、はいっ!」
おなじみの会議室の前でジルにぃが勇ましい声を出すと、中からは相変わらずの頼りない声が聞こえてきた。気を張っていたはずなのにちょっと笑いそうになりながら、ジルにぃの後を追ってその部屋へと足を踏み入れた。
「マージニア様。いや…。」
部屋の中ではなにやら話し合いが行われていたらしく、マージニア様の他にウィルさんと数名の大臣がいた。私は部屋に入ってすぐに、いつもより丁寧にリオレッド式の挨拶をしてみせた。
「王様。この度は…」
「リア様、や、やめてください…っ。」
正式な挨拶をしようとしたのに、言葉を言い終わる前に止められてしまった。挨拶を崩して彼の方を見ると、彼はやっぱりアタフタとした落ち着かない様子で目の前に立っていた。
「本当に、本当にありがとうございました。」
そして今度は彼の方が大きく頭を下げて言った。"王様"という名前に変わってもこの人は変わらないんだなって、逆にちょっと安心している自分がいた。
「マージニア様。」
私はそんな彼をまっすぐとみて、今まで通りの呼び方をした。すると彼は「は、はい」とどもりながらも、しっかりと私の目を見返してくれた。
「テムライム王から、ご伝言をお預かりしております。」
ここに来る前、テムライム王からマージニア様に伝えてほしいと預かった言葉がある。これを伝えるのも、今回の私の大事なミッションの一つでもある。私は出来るだけ背筋を伸ばしてテムライム王みたいに堂々と立って見せた。
「テムライムから出来る支援は、惜しみなくさせてもらう。その一切の権限を、わたくしアリア・ディミトロフに任せる。と。」
国が破産する以外のことなら何をしてもいいと、王様は言ってくれた。それに私なら破産させるなんて事絶対しないから大丈夫だって、太鼓判も押してくれた。私は王様からの信頼を背負って、ここに立っている。
「まだ、これからです。ここがスタートです。」
その信頼は、正直とても重い。でも重ければ重いほど、身が引き締まる感じもする。まだここがスタートなんだって、ここからが踏ん張り時なんだって、言われているような気もする。
「リオレッドは私にとっても大切な国です。私にも大切な場所を守る手助けをさせてください。」
リオレッドには私の"大切"がたくさんある。そしてテムライムに行った今も、リオレッドの人々は私のことも大切に想ってくれている。だから私は大切にしてくれるこの場所を、そして人々を少しでも早く元気にしたい。
「あ、ありがとう、ございます…っ。」
マージニア様はさっきよりもっと頭を深く下げて、涙ながらにお礼を言ってくれた。"王様"になった人にこんな風に頭を下げられるのは私でもやっぱり抵抗があったから、すぐに肩を持って顔を上げてもらった。
「お話の途中なのですよね。ごめんなさい。」
「い、いえ…っ。」
「リア様もエバン様もお時間あれば参加していってください。」
マージニア様はそう言って、秘書の人に頭を下げて私たちの席を用意させた。腰が低いのは悪くないことだけど、もう少し威厳はつけて行かないとなと、生意気なことを考えた。
「リア。」
「ウィルさん。」
マージニア様が席に座ったのを確認して、ウィルさんが立ち上がった。そして私の方に寄って来て、ジルにぃと同じように私を抱きしめてくれた。
「君の作戦、素晴らしかったよ。最後まで相手に密輸の場所がバレる事はなかった。」
「よかったです。」
そして背中をポンポンと叩いてそう言った。賢い人に作戦を褒められるってのは、すごく嬉しいことだった。
「でも、ポルレさんとリアにだけ通じるあの言葉は、一体…。」
「あれは…。」
でも次の瞬間、体を離したウィルさんは不思議そうに聞いた。やっぱりそこって気になるよなって思いながら、言い訳を考えずここに来てしまったことを少し後悔した。
「虫の言葉、みたいなものだと思ってください。」
何とか言い訳を絞り出してみたけど、全然意味が分からないって自分でも思った。案の定大臣たちはすごく不思議そうな顔で私を見ていたけど、ウィルさんだけが少し笑ってこちらを見ていた。
「虫の、言葉ね。」
そして繰り返すように言った後、「なるほど」と小さく言った。
何がなるほどなんだろうって思ったけど、次の瞬間ウィルさんは「座ろっか」と切りけるようにいって、自分の席へと戻っていった。私ももう一度気を引き締めて、用意してもらった席へと腰を下ろした。
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