第51話 よくできました!
「あれっ、リアちゃんじゃない?」
「ホントだ!リアちゃん!!」
「よく来たねっ、おかえり。」
みんなの方に近づいていくと、私に気づいた人たちがたくさん寄ってきてくれた。エバンさんの言う通り私を見つけてみんなが笑顔になってくれたから、何だかとても暖かい気持ちになり始めた。
「みなさん、ただいま。」
"お疲れ様でした"とか、"大変でしたね"とかじゃなくて、"ただいま"。
やっぱり私がここに来て一番に言うべきなのは、その言葉な気がした。するとみんなは少し泣きそうな顔になりながら、改めて"おかえり"と言ってくれた。
「リアちゃん、本当にありがとうね。」
「頑張ってくれてたこと、みんな知ってるよ。」
そして小さい頃から私を知ってくれている何人かが寄って来て、そう言ってくれた。半分泣きながら首を横に振った。
「私は何も…っ。」
今回本当に、私は何もできていない。むしろ家族を放り出して勝手に暴走しただけで、今回動いてくれたのは私達の王様だ。謙遜でもなんでもない事実を伝えると、八百屋さんのおじさんが「そんなことない」と首を振って言ってくれた。
「リアちゃんが頑張ってるって思うだけで、俺たちも頑張ろうって気になれたんだよ。」
「ゴードンさんにもずいぶん励まされたよ。君たち親子は本当に似てるね。」
パパと似ていると言われると、なぜだかすごく嬉しくなる。自分がすごく出来た人間になれたような気持ちになれる。気分が上がった私が「でしょ?」と言うと、みんな笑って「うん」と答えてくれた。
「いいから、早く会いに行きな。まだ行ってないんでしょ?」
その場でしばらく今の状況なんかを話そうと思っていたけど、途中で話を遮ったカミラさんが言った。すると周りにいたみんなは「そうだよ」と言って、笑ってうなずいてくれた。
「はい…っ!また後で来ますね!」
「私たちのことは大丈夫だから。きっと心配してるよ。」
私は送り出してくれたみんなに深く礼をして、港の方へと小走りで向かった。エバンさんは「転ぶよ!」なんて言って注意はしていたけど、走り出した私の足を止めることもしなかった。
「…っ。」
港の近くにたどりついて、足を止めた。
っていうのも、着いてすぐに、テキパキと指示を出しながら自分も何か大きなものを運んでいる、大好きな人の姿が目に入ったから。
相変わらず黒く焼け焦げた腕の色んな所に、包帯みたいなものがまかれていた。腕だけじゃなくて頭も手当てを受けているっていうのに、率先して動かないでくれって思った。
「もう…っ。」
どうしていつもそんなに人のために頑張っているの?
怪我してるのに。自分は死ぬかもしれない危険にさらされたって言うのに。なのにもう今、あなたは他人のために汗をかいている。
「ちょっとは家族のこと、考えてよ…っ。」
自分のことは棚に上げて言った。すると言葉と一緒に涙があふれてきて、会えた安心感で足にも力が入らなくなった。
「リア。」
その場に座り込んだ私の肩を、エバンさんが支えてくれた。するとその頃私に気づいた部下の人が、私の方を指さして何か大声を出した。
「リア…っ!!」
座り込んでいる私をみて、パパは真っ黒な顔を歪ませながらこちらに走ってきた。私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、歪んで見える彼の姿を必死で目に焼き付けた。
「パ、パパ…っ!!」
そして両手を広げて、彼に抱きしめてくれるのを待った。するとパパは飛び込むみたいにして私を抱き上げて、そして折れそうなくらい強く抱きしめた。
「リア…っ、よく来たな…っ。」
「パパ、パパ…っ。」
生きててくれてありがとう。生きて、そして今もこうやって、誰かのために必死で汗を流していてくれて、本当にありがとう。
「ありがとう…っ。」
私のメッセージを受け取って、そして動いてくれてありがとう。
「ごめんね…っ。」
そして危険にさらしてしまって、本当にごめんなさい。無理をするって分かってて、させてしまって本当にごめんなさい。
「リアが謝ることなんてないよ。リアはよくやった。すごいよ。本当によく頑張った。」
「パパ…っ。」
ああ、こうやって。こうやって褒めてもらう度に、いつも私は頑張っていた。そして今だって私はこの瞬間のために頑張っている気がする。
「パパも…。」
もしかしてパパもそうなのかな。
みんながパパには言ってくれている気がするけど、私からも言ってほしかったりするのかな?
「パパも、よくできました…っ!」
今回は本当によく頑張った。
パパの頭を撫でながら言うと、パパは少し照れたように笑ってまた私を抱きしめた。誰かのために頑張っていたパパはやっぱり汗臭かったけど、その汗臭さですら、今の私には心地が良かった。
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