第49話 またこれから頑張らなくちゃ
「よいしょっと。」
エバンさんの言う通り、すぐ近くに本当に小さな村っぽいところがあった。その近くでウマを止めたエバンさんは、ひょいっと私を持ち上げてウマから降ろした。
「ありがと。」
「うん。」
村を見て見ると、この村は戦いの影響はそこまで受けていないらしく、壊れているところなんかはあまり見当たらなかった。それでも木が倒れていたりがれきみたいなものが落ちていたりする場所もあって、国全体で見るとどのくらい被害を受けているんだろうと心配になった。
「行ってみよ。」
「うん。」
エバンさんは先陣を切って、その村に入って行った。でも多分私の顔が見えた方が員だろうなって思って、私はそのすぐ後ろをついて行った。
「あの、すみません。」
「は、はい…。」
エバンさんは一番に発見した洗濯物をしている女性に声をかけた。
すると案の定、見たことのない屈強な男に話しかけられた女の人は、一瞬ビクッと体を揺らしてこちらを見た。私はエバンさんの後ろからひょっこり顔を出して、「こんにちは」と言った。
「もしかして、リア、様ですか…?」
「はい、ごきげんよう。」
「うわぁっ!」
まるで芸能人にあった時みたいないい反応をして、女の人はこちらを見た。すこしだけいい気になってしまった私は、「突然すみません」と笑顔で言った。
「お忙しいところごめんなさい。ちょっとお水をいただきたくて…。」
「も、もちろんです!」
そのままお水をお願いしてみると、女の人は急いで家の中に入って行った。焦らなくていいのにと思って待っていると、あっという間にいくつかのコップを持ってきてくれた。
「お待たせしましたっ!どうぞ。」
「ありがとうございます。」
私の分だけじゃなくて、みんなの分も持ってきてくれた。気遣いが嬉しくなった私は丁寧にお礼を言って、コップを一つ手に取った。
「はぁ…っ、冷たくておいしっ。」
そのままコップを口に持って行くと、冷たい水が食道を通っていく感覚がした。エバンさんの言う通り気分がすごくリフレッシュしたのを感じて、たまっていた空気を「はぁ」といっぱい吐き出した。
「本当に、ありがとうございました。」
「いえいえ、こんなこと…っ。」
女の人は恐縮して何度も頭を下げてくれた。頭を下げられるとこちらも下げたくなる日本人の心理で、私もぺこぺこと頭を下げた。
「あの…。暮らしは、どうですか?」
そして調子に乗って、ついでに聞いてみることにした。すると女の人は「はい」と少し悲しげな顔で言った後、村全体をゆっくりと見渡した。
「ここは影響も最小限で済みましたが、食糧がやはり少し…。ただ内戦が終わったと聞いて、少しだけ安心しています。」
「そうですか…。」
精いっぱい食糧支援をしてきたはずだけど、パパが拘束されていた分、困っている人がいるはず。それにこんな風になっているのなら人手も足りなくて、食糧以外にも困っている人はいっぱいいる。
「すぐにでも食糧が届くよう手配しますね。ちょっとだけ、待っててください。」
「は、はい…っ!」
困っている人のために何とか動かなければ。
おじさんが心配な気持ちが変わったわけではないけど、少しだけ前向きになり始めた。親切にしてくれたこの人に恩返しをするためにも、一生懸命動かなきゃ。やっぱり早くレルディアに着いてしまいたい気持ちになり始めた私は、改めてお礼をしてその場を後にすることにした。
「リアは本当に慕われているんだね。」
ウマの方まで歩いている途中で、エバンさんが言った。私はこの国で"慕われている"んだろうか。考えてみたけど慕われているわけではなさそうで、「う~ん」と微妙な返事をした。
「慕われてるっていうか、乱暴娘だと思って可愛がられてるって感じだと思う。」
尊敬の対象とかじゃなく、みんなのおてんば娘みたいな存在なんだと思う。自分でもちゃんと自覚できているからそう言うと、エバンさんはクスクスと笑った。
「確かに。」
そして笑いながら肯定した。自覚はしているはずだけど、それを誰かに言われるのは少し意味が違う。
「確かにってなによ!」
「褒めてるんだよ。」
「ウソつき。」
エバンさんはいたずらそうに笑って「ごめん」と言った後、また軽々と私をウマに乗せた。おじさんがどうなっているのか、どういう状態でいるのか気にならないわけではなかったけど、美味しい水と楽しい雰囲気に、確かに心が癒されているのを実感した
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