第48話 再会、そして報告は…
「お。旦那たち見えましたね。」
そしてリオレッドがやっと目に入り始めた頃、ジェイドさんが言った。私にはまだシルエットすら見えてないけど、彼には両腕をくんで立っているエバンさんの姿が見えているらしい。
「もうすぐっすよ!お嬢!」
「うん。ありがとう。」
レイヤさんはそう言って、船をビュンと前の方に進めた。レイヤさんの言う通り、リオレッドはきっともうすぐだ。
――――もうすぐ、みんなに会えるんだ。
「リア!」
「エバンさん!」
まるで久々の再会みたいにして私たちはお互いを呼び合った。そしてエバンさんが両手を広げてくれたから、私はその胸に飛び込むみたいにして船を降りた。
「大丈夫だった?道中なにもなかった?」
「うんっ。大丈夫っ。」
ずっとどこかで不安な気持ちを抱えていたらしい私は、エバンさんのぬくもりを全身で噛み締めた。レイヤさんやジェイドさんが「熱いっすね~」とかってからかっている声は聞こえていたけど、もはやそんなことは全く気にならなかった。
「それで?!みんなは!?!?」
でもこんな風にのんきに抱き合っている場合なんかじゃないことを思いだした私は、大きな声でエバンさんに聞いた。よっぽどうるさかったのか、レイヤさんとジェイドさんは両耳をふさいでため息をついていた。
「うん。」
するとエバンさんは、意味ありげな「うん」を言った。
まさか誰かに何かがあったのか。声が出せなくなった私は、固まったまま彼の次の言葉を待った。
「みんな、生きてる。」
でも私の不吉な予想に反して、エバンさんはにっこり笑って言った。
不安でガタガタになっていた胸が一気に暖かくなって、そしてそれが涙になってあふれ出した。
「よか…よか…った…っ。」
「うん。」
泣いている私を抱きしめて、エバンさんはまたはぎれの悪い「うん」を言った。私のこの感動を邪魔しないでくれと思って彼の顔を見上げてみると、やっぱり少し困った顔をしていた。
「なにか、あるの…?」
やっぱり何かあるって察した私は、思ったことをそのまま口にした。するとエバンさんはもっと困った顔になった後、「うん…」と言いにくそうに言った。
「ゾルド、様が…。」
「おじ様が、何…?」
さっきまで穏やかだった心臓が、一気に大きな音を立てて鳴り始めた。感覚のいい二人に聞こえるんじゃないかってくらい、大きな音を立てていた。その音が胸の内側からドンドンと私を叩いているような感覚すらして、痛くて苦しくて息が出来なくなりそうだった。
「戦い自体には参加してなかったみたいだけど、たまたま巻き込まれそうになった子どもを守って、大きなケガをされている。」
「ケガを…?」
おじ様が、ケガ?しかも大きな?
息切れを覚えそうなほど高鳴った心臓は一向に止まる気配を見せなくて、私は思わず自分の手で胸を押えた。熱くないのに汗が垂れてくるような感覚もして、それがとても気持ち悪い。
「意識が、ないんだ。」
「う、そ…。」
エバンさんの言う通り、確かに死んではいない。生きている。
でも、意識が、ない…。
どうしよう。おじさんに何かあったら。
小さい頃からあれだけ優しくしてくれた大好きなおじさんと、もう一生話せないなんて、絶対に嫌だ。こんなことになるならおじさんを先にテムライムに…。
「リア。」
もはや意識がここになかった私を引き戻すように、エバンさんは私の両肩を持った。そして目線を合わせるようにかがんで、「リア」ともう一度名前を呼んだ。
「とにかく行こう、レルディアに。みんな待ってる。」
「う、うん…っ!」
そうだ。私がこんなところで立ち往生してても仕方ない。
とりあえず私はレルディアに行って、それでパパやアル、ジルにぃ達の顔も見て、それでそれで…。
「それじゃ、俺たちはそこら辺にいるので、また呼んでください。俺の乗ってきた
「ありがとう、レイヤ。」
慌てている私は半分放置されたまま、みんなは次の段取りの話を進めていた。私はエバンさんに促されるまま、海岸の奥にある山に置いてきたというウマの方へと進んだ。
「よし。リアは僕と一緒に。」
「う、うん。」
動揺で手が震えているのを察して、エバンさんは自分のウマに私を乗せた。そしてエバンさんは部下の人たちとアイコンタクトをした後、ウマをレルディアの方へと走らせた。
「リア、大丈夫?」
「うん…。」
もはや"うん"しか言えなくなった私は、なんとか声を出して返事をした。するとエバンさんは震えている私の手を上からそっと握った。
「途中に小さな村があったから、一旦そこでお水でも飲ませてもらおうか。」
「え…?」
しばらくはそのままウマに乗っていたのに、エバンさんが唐突に言った。驚いて彼の方を振り返ると、にっこり笑った後私の頭にポンと手を置いた。
「ほら。長時間移動してるんだし、新鮮なお水飲んだ方がいいよ。」
「でも…。」
「大丈夫。」
そんなことより早くレルディアに行きたい。そう言おうとしたことは分かり切っていたはずなのに、エバンさんは私の言葉を遮った。
「ゾルド様は大丈夫だから。」
そして根拠もないはずなのに、力強く言った。この人はたまに、こういう根拠のないことを自信満々に言う。でも私はそれに毎回、救われている気がする。
「それにリアはこれからリオレッドのために色々と動きたいんだろ?それなのにリアが倒れたりしたら困るからさ。ちょっと休憩だよ。」
これから私がしようとしていようとする事を言い当てて得意げにしているエバンさんを見ていたら、ちょっとおかしくなって笑ってしまった。するとそんな私を見たエバンさんは、「いいでしょ?」と得意げにいってみせた。
「うんっ。」
やっぱり私の返事は"うん"だったけど、ちょっとだけ前向きな"うん"に変わっていた。それを満足そうに確認したエバンさんは、部下の人たちに指示を出して、その途中の村というところへと向かった。
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