二十八歳 復興
第46話 面白い話してっていう地獄のフリ
「お嬢。落ち着いてください。」
「落ち着いてます…。落ち着いて…。」
…られるかいっっ!!!
ってツッコんでいる私が今いるのは、私とレイヤさんが出会ったあの海岸です。
レイヤさんとエバンさんはあの足ですぐにリオレッドに行ってしまった。一晩経っていてもたってもいられなくなった私は、レイヤさんからの連絡を受け取る役の海賊さんであるジェイドさんのところまできて、ソワソワと連絡を待ち続けていた。
「大丈夫っすよ、多分。」
「う、ん…。」
内心テキトーなことを言うなとは思っていたけど、ソワソワしているからって八つ当たりするわけにもいかない。とりあえず自分の気持ちを静める意味でも、一旦大きく深呼吸をしてみた。
「ねぇ、ジェイドさん。」
「なんすか。」
「なんか面白い話、ないの?」
深呼吸をしたくらいでは気がまぎれそうになくて、地獄のようなふりをしてみた。するとジェイドさんは「う~ん」としばらく何かを考えた後、ニヤリと笑った。
「そう言えばこの間ね、ここの反対側辺りの海岸を通ってた時なんすけど。」
「う、うん。」
このフリで面白い話してくれるとか、この人結構有能なのか?
私なら「その雑な振りやめてください」って拒否するようなところなのに。自分で振っておきながら少し感心して、彼の話を聞いた。
「ある村がチラッと見えたんすよね。こんなところに人が住んでんだ~と思って少し近づいてみたんです。そうしたら見えたんですよ。」
「な、なにが…?」
「何がって…。」
真剣な顔をしたジェイドさんが、顔をグッと私に近づけた。
なに?これって面白い話じゃなくてホラーだったの?と、私は思わず身構えた。
「女風呂に決まってるじゃないっすか~~~!!!」
「はぁ?」
すると次の瞬間、ジェイドさんはすごく楽しそうな顔をして言った。彼は呆れて声が出せなくなっている私なんて無視して、楽しそうに話を続けた。
「どうやらそこは村って言うより、知る人ぞ知る秘湯みたいなところっぽくて。しばらく張り付いて見てたら、女が湧くように来るって来るって…。もう最高っすよ、あの場所は!」
「言いつけよっと。」
楽しそうなジェイドさんの話を割るように言った。すると彼は「え?」と言って動きを止めた。
「エバンさんに言いつけて牢屋行にしてもらおう。」
「ちょ、お嬢!それはないっすよ~!」
そして大げさに反応しながらそう言った。
私は首を横に振って、「絶対言いつける」と怖い顔を作った。
「覗きなんて悪趣味な!ちょっと視力が良いからって使い方間違ってると思うわ!こんなの面白い話でも何でもないし、むしろ犯罪よ!だから言いつけられて当然…」
「シ-ッ」
まくしたてるようにして怒り始めた私を止めるようにして、ジェイドさんは静かにしろというサインをしてきた。喧嘩を売られてんのか?とさらにムッとして、「ねぇ!」と大声で言った。
「大事な話してんの!ちょっと聞いてんの?!」
「ちょっとお嬢。まじで黙ってて。」
すると今度は本気のトーンで、ジェイドさんに怒られた。どうして私が逆に怒られないといけないの。正論しかゆってないのに。
「なんなの…。」
なんなんだよまじで。
この人といいレイヤさんといい、海賊さんってちょっと不思議な人が多いな。って言っても私も不思議な人の部類だろうから、他人にとやかく言える立場ではないけどね。
「よし。」
「よし?」
しばらくして、ジェイドさんが唐突にいった。
こちらはなにもよくないんですけどと思って固まっていると、彼は私を見てにっこり笑った。
「3時間後にはここから出るので、急いで準備してきてください!」
3時間後?ここから、出る…??
「ここから…出る?ってことは…。」
「はい。場所によっては危ないけど、首都レルディアならもう大丈夫だってレイヤさんが言ってます。」
まだ誰の安否も分からないのに、笑顔で言ってくれた彼の言葉に少しホッとした自分がいた。私はさっきまで怒っていたことなんてすっかり忘れて、「わかった」と返事をして、ここまで乗ってきたウマに乗り込んだ。
「それじゃ、3時間後に!」
「はい!気を付けて!」
―――みんな、きっと無事でいてね。
無事を信じているはずなのに、手綱を持つ手は震えていた。
一緒に来てくれているエバンさんの部下にはそれが気づかれないように、何とか冷静を保って家までの道を走った。
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