第45話 偉い人のお部屋にはノックをして入りましょう
「王様…っ!」
カレッタを終えてお茶を飲んでいた私たちのところに、トマスさんが焦った顔をして入ってきた。私はびっくりしてお茶を吹き出しそうになるのを何とかこらえて、コップを机の上にゆっくりと置いた。
「なんだ。ノックもなしに。来客中だと分かっているだろう。」
「す、す、すみません…っ!!緊急事態でして!」
今まで見た中で一番焦った様子のトマスさんが言った。ノックもせずに王様の部屋に入ってきちゃうんだからよっぽどのことなんだって考えたら、きっとその報告がリオレッドに関することだろうってことくらいは予想がついた。
「リオレッドのことか?」
王様もそれを察してトマスさんに聞いてくれた。すると彼は深呼吸をした後、案の定「はい」と返事をした。
「リアも残って聞いていきなさい。」
早く聞きたい気もした。でも、聞きたくない気もした。
これだけ焦っているんだから、よくないことなのかもしれないって思った。でもいつかは聞かなければ。聞かないと余計ソワソワする。
覚悟を決めて、私は大きくうなずいた。
「決戦が終わったと、連絡が入りました…っ!」
「それで?」
うん。それで?
私の言いたいことは、全部代わりに王様が言ってくれた。私は両手を胸の位置で固く結んで、次の言葉を待った。
「カルカロフ軍が王城に攻め入ったらしく…っ!」
「ってことは…。」
「マージニア様の、勝利です…っ!」
「…っ。」
少し泣きそうな目で言ってくれたトマスさんの言葉を聞いて、全身の力が一気に抜けた感じがした。うまく言葉が出てこなくて、力が抜けた頭を固く結んだ両手に置いて、貯まった息を吐き出すしか出来なかった。
よかった、本当に良かった。勝った。マージニア様が、勝ったんだ。
でもまだ、確認すべきことはたくさんあった。
「それで?!みんなはどうなった?!」
「リア…っ!!!!!!」
「ちょっと、騎士王様…っ。どうか…っ。」
また私の聞きたいことを王様が聞いてくれようとした時、遠くの方から大きな声でエバンさんが私を呼ぶ声が聞こえた。アポも取っていないだろうし、なんなら誰かに止められている声もする。
「…リアっっ!!!!」
「今日はノック無しで入られることの多い日だな。」
「し、失礼しましたっ!」
そんな人たちを見ていたら、なんだか気持ちが落ち着いていく感じがした。落ち着いてなんかいられないのに。エバンさんは何度も王様に謝って、王様もそれを見てちょっと笑っていた。
「それでリア、伝えたいことが…っ」
「ああ、今トマスから聞いたよ。ちょうど今、みんなの安否を聞こうとしていたところだ。」
「す、すみません…。」
焦ったエバンさんが話をしようとするのを、王様が止めた。するとエバンさんはまた怒られた後の子どもみたいにシュンとして、何度も何度も謝った。私はついにそこで吹きだして笑ってしまった。結構私って図太いやつだなって思った。
「トマス。続きを。」
その空気を引き締めるように、王様が言った。トマスさんは大きく息を吸った後、「はい」とまた言った。
「襲撃に遭い、イグニア様は王城から逃亡したとのことです。ただそれ以上、他の人の安否は分からず…。」
「私も同じ報告を受けています。」
トマスさんとエバンさんは、やっと冷静な顔で報告をした。
とりあえずマージニア様は無事なんだろう。お城を取り返してもマージニア様が死んでいれば意味がない。でもアルは…、ジルにぃやウィルさん、そしてゾルドおじさんは…。パパとママはメイサは、みんな大丈夫なのか。
ちゃんと、無事でいるの…っ?
「い、行かせてください…っ。」
やっぱり私も、この目で確かめないと気が済まない。みんなに会って抱き締めないと、何も信じられない。
「リオレッドに、行かせてくださいっ!!」
私は目の前に王様がいることをいいことに、深く頭を下げてお願いをした。すると王様はなぜか「エバン」と、私ではなく私の夫の名前を呼んだ。
「まずは状況を把握するためにも、ディミトロフ家から軍を派遣しろ。状況が把握でき次第、次はリアが向かうんだ。」
本当は今すぐにでも行きたい。あの日みたいに逃亡して、レイヤさんに運んでもらいたい。でも決戦が終わったからと言って、状況が落ち着いているとは限らない。今私が行ったら邪魔になる。そんなことは分かっている。
――――でも、早く…。
「リア。」
頭がパンクしそうなくらいいろんなことを考えている私を、エバンさんが穏やかな声で呼んだ。私がゆっくり顔を上げると、エバンさんは決意に満ちた顔をしていた。
「レイヤの船でリオレッドに向かう。それで1日でレルディアの状況を把握して、次の日にはリアが来られるかまたレイヤに連絡してもらうようにしよう。」
そして力強く言った。確かにレイヤさんを連れて行けば、仲間と伝達をしてもらう事で情報もすぐに入ってくるはずだ。
「大丈夫。明日には君もリオレッドに向かってる。」
エバンさんの目が今までで一番強く燃えている気がして、うなずくことしか出来なくなった。まるで催眠術にかかったようだった。
「それでは王様。早速向かいます。」
「よろしく頼む。」
そしてエバンさんは王様にそう言った後、私に向かって「行ってくる」と言った。私は何とか「行ってらっしゃい」と声に出して言って、彼の背中を見送った。
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