第44話 負けられない戦いがここにはある!!!!!!


「う~ん…。ここで。」

「なるほど…。」



その次の日。まだ決戦が終わったという連絡は入ってこなかった。

連絡を待っているからだろうか。始まった連絡を聞いてから1日も経っていないのに、1年くらい経ったかのような感覚すらあった。



「それなら…。」



そして私はと言うと…。朝一番から、ある人に呼び出された。



「こうだ。」

「なかなかやりますね…。」



そう、私は宣言通り王様に呼び出されて、カレッタをしている。チェスはやったことないから知らないんだけど、本当にチェスみたいなゲームだなって思ってよくよく話を聞いてみると、実はカレッタは浅田さんがこの世界に送り出したゲームらしい。


そりゃ、チェスにも似るわな。



「はい。」

「ナイトをそこに…。」



今思ってみれば騎士がナイトって呼ばれてるのだって、この駒がナイトだからかもしれない。こんなことなら前世でも、将棋とかチェスとか何でもやってみておいたらよかった。



「よし。こうしよう。」

「う~ん…。」



戦況はと言うと、よく分からないけど、たぶん五分五分だと思う。子供の頃からこのゲームに親しんできた王様相手に五分五分とは、私にしてはよくやってるのではないか。



でも…。



「負けられないんです。」

「ん?」



私は負けるわけにはいかない。相手が王様だからって、この勝負には勝たなくてはいけない。



「私、決めたんです。」

「何をだい?」

「次みんなに会った時、あなたたちが戦ってた頃、私はカレッタをしてたんだよって報告しようって決めたんです。」



みんなに次会って、私は今日のことを報告する。そしてきっとアルならこういう。"お前はいつものんきでいいよな"って。



「俺たちが戦ってたのにお前はなにしてたんだって怒られると思うんですよ。」

「うん、そうだね。」

「それで怒られた時、こういってやるんです。」



考えていた手を止めて、王様の方を見た。すると王様は不思議そうな顔をして、私の方を見ていた。



「でもね、勝ったんだよ。って。」



そう伝えたら、きっとパパはこういう。

"リアはすごいね"って。"王様に勝ったんだね"って。



「だから負けられません。」



パパに褒めてほしいから、私はここで負けるわけにはいかない。

負けられない戦いが、ここにはあるんだ!!!!!



「それは…。俺も負けられないな。」



すると王様は、にやりと笑って言った。私はムスッとしてその目を見返した。一国の王様に向けて良い目ではないと思う。



「王としての、プライドだ。」



王様は真剣な目で言って、ボードの方に目線を移した。私も小さく「よしっ」と気合を入れなおして、自分の次の手を必死で考えた。



「これで、どうでしょう。」



確かチェスにはウマの駒があった気がする。あの駒の役はなんだったんだろう。でも浅田さんがこのゲームを生み出した時は、ウマはこの世で何かを運んでくれる動物ではなかった。


だからカレットの駒には、ウマがいない。私が動かしたのは、農民の駒だ。



「王様。」

「ん?」

「カレッタに新しい駒を作ったらどうでしょう。」



次の手を考えている王様に、私は意味の分からない提案をした。すると王様はゆっくりと顔を上げて、「ん?」と言った。



「だってカレッタにはウマスズメ馬車リゼルがないじゃないですか。それに船だって。」



王様はすごく驚いた顔になって、何も言わなかった。

でも一度言いだしたことを止められない私は、そんなことを気にすることなく話を進めた。



「駒が増えればもっと楽しいゲームになると思いません?手が増えるから、飽きた人もまた遊びはじめるかも。」

「ふふっ。」



すると王様は唐突に笑って、そして駒を動かした。王様が動かしたのは、商人の駒だった。



「君はそうやって、新しいことを考えてきたんだね。」



そして私に目線を移して言った。その顔はとても楽しそうだった。



ウマスズメを使って物を運んだり、馬車を作ったり。船を使った輸送方法を考えたり…。まるでカレッタの駒を増やすみたいに、この世界の駒も増やしてきたんだね。」



楽しそうな顔をしたまま王様はそう言って、次の手をさすよう私に促した。私は急いでボードに目線を移して、自分が次どう動くべきなのかを考えた。



「確かにそうなのかもしれません。駒を増やしたら、もっと楽しくなる。もっとみんなが違う動き方を出来るようになるかも。それくらいの軽い気持ちでした。」



言われた通り、私はこの世界にカレッタの駒みたいなものを増やしてきた。

そしてその駒が動くルールを知っていたから、それを伝えてきた。



「でも実行してきたのは私ではありません。じぃじやパパ、そして王様です。」



でも実際にそのルールを適用させたり広めたりしたのは、間違いなく私ではない。ナイトの駒を動かしながら、私は言った。



「だからカレッタのことも、よろしく頼みますね。」

「考えてみよう。」



関係のないことを話せるくらいリラックスできていたのは、やっぱりカレッタの勝負に必死になっていたからだろうか。私たちはそれからも真剣に、お互い負けられない戦いを楽しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る