第43話 応援、しよう
「リア。」
「始まったって、レイヤが。」
「そう…。」
そしてそれから数日後、珍しく明るいうちに仕事から帰ってきたエバンさんが言った。居てもたってもいられない気持ちはしばらく消えそうになかったけど、ただ祈ること以外は何もできないことは分かっている。
「大丈夫だよ、きっと。」
「そうね。」
アルやジルにぃは、ケガしないだろうか。そもそもおじさんは前に出て戦いだすなんてしないでしょうね。
それに今でも拘束されているんだろうパパやママは、元気にやっているだろうか。多分実家にいただろうメイサも、一緒に拘束されてるんだろうか。ご飯、ちゃんと食べられてるかな。
「どうしたの?ママ。」
冷静を装っていたはずなのに、私が動揺しているのを察したのか、カイが私をつんつんして言った。私は心配そうな目をしているカイに目線を合わせるようにしてしゃがんで、そのまま優しく抱きしめた。
「今ね、じぃじとかジルにぃ、アルが戦ってるの。」
「戦う?」
「うん。」
今度は私達を見て寄ってきたケンが、首を傾げて言った。カイを抱きしめていた体を離して「うん」と言うと、二人は私を見てにっこり笑った。
「守るための戦いだよね!」
「頑張ってるんだ!」
そして二人はとても元気に言った。そうだ、今みんながしているのは彼らの言う通り"守るための戦い"だ。
「そうだよ、よく分かったね!」
戦うことは守ることだと分かっていてくれたことが嬉しくなって、私は二人の頭に手を置いた。すると二人とも得意げな顔をして、「すごいでしょ!」と笑った。
「それじゃ、応援しなきゃ!」
「そうだ!応援しよ!」
「ママ、リオレッドはどっち??」
そして楽しそうな顔のまま辺りをキョロキョロしながら言った。この子たちは私なんかよりすごくたくましくて、すごく優しい。そして私なんかより、みんなのことをちゃんと信じてる。
「うんとね、あっちかな。」
「よ~っし!」
「カイ!外に行って応援しよう!」
「うんっ!」
私もこの子たちのようにみんなを信じて応援しなくては。
駆け抜けていく背中を見ていると、私もすごく前向きな気持ちになり始めた。
「待って!ママも行く!」
「ルナも!」
私達の様子を見ていたルナも一緒に応援すると言って、お兄ちゃんたちの背中を追って駆けだした。そして私たちは庭に出て、リオレッドまで続く海の方を見て叫んだ。
「頑張れ~!!!!」
「アル~!負けるなよ~っ!!」
「じぃじ~~っ!会いたいよ~~~っっ!」
そっちの方向にみんながいるのかは分からなかったけど、海は私達の声を届けてくれる気がした。だって海の道だって、私の作った道なんだから。
「頑張れ~~っっ!!!」
頑張れ。とにかくその言葉以外、私の語彙力では何も伝えられない。
頑張れ。負けるな。絶対に勝って。
「大丈夫だから~~~~ッッ!」
そしてきっと大丈夫。
私達はまた笑顔で再会できるはず。
笑顔でまた会って、一緒に未来のためになることが出来るはず。
「ルナは
「ふふっ。」
「ルナは食いしん坊だなぁ!」
何もかも終わったら、みんなでワッフルを食べよう。
またみんな集まって笑って、くだらない話をして。
お腹がはちきれそうになるくらいのワッフルを、食べつくそう。
「ママ、聞こえたかな?」
「うん。絶対聞こえたよ。みんなの声、おっきかったから。」
この子たちが今大きな声を出したみたいに、きっとリオレッドの国民だって大きな声を出して応援しているはずだ。その声は確実に力に変わって、強さに変わっているはず。
「叫んだらなんかお腹すいちゃった。」
「ルナも~。」
「ママ、おやつ食べようよ。」
心配していたって何も変わらない。だったらドンと構えて待っていよう。子どもたちが私にそう言ってくれているような気がした。
「そうね。そうしましょ。」
「今、持ってまいります。」
後ろで会話を聞いていたティーナが、にっこり笑って言ってくれた。私も同じように笑い返して「お願い」と言った。
「僕も一緒に食べて行こうかな。」
「ダメ~!パパはお仕事でしょ!」
「え~?ルナは厳しいな。」
後ろで私達の応援を見ていたらしいエバンさんは、厳しい娘に背中を押されて渋々仕事に戻った。空は今日も青い。リオレッドも今日は晴れているだろうか。
―――どうか、みんなの心も、
晴れる明日が来ますように。
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