第42話 次会って、ちゃんと怒られるために


「パ、パパ…っ。」

「リア、落ち着いて。」



王様の前という事も忘れて取り乱す私の肩を、エバンさんが支えてくれた。



「う、うん…。落ち着く。」



何とか気持ちを落ち着けようと、その場で深呼吸をしてみた。でもどう考えても気持ちが落ち着く訳なんてなくて、心臓は耳まで音が聞こえてしまうくらいにうるさかった。



「あ、あの…っ。パパは…、ママは今…。」

「密輸の件がバレて、王城に拘束されているそうだ。」



いつかバレるのではないかと思ってはいたけど、ついにその日が来てしまった。密輸をしていたのだって困っている国民のためなのに、それがバレて拘束されるなんてどう考えてもおかしな話だと思った。



「ただイグニアもバカではない。ゴードンを失えば損失がデカいことくらいはよく分かるだろう。だからすぐには危害は加えられないと思う。」



バカですけどね。あいつはものっすごいバカですけどね。

と思っていたけど、王様の言葉を信じるしかない私は、小さくうなずいた。



「それにだ。ゴードンが拘束されたことで、ゴードンの部下たちが職務放棄をしているそうだ。」

「みなさん…。」



彼らが職務を放棄するということは、国の物流全体が止まっていることに等しい。国の物流が停止するという事はすなわち、生活が危険にさらされてしまう人も増えてくる。



「このままでは自分たちの食糧や生活が危ういってこと、身を持って体感することになる。イグニアもきっとそれに気が付くだろう。」

「でも…。」



そうだったとしても、一応王様であるアイツに影響が出るのは、国民に影響が出た後だ。あのバカのプライドのせいでたくさんの人が危険にさらされると思ったら、いてもたってもいられなくなりそうだった。



「ああ。だからこそ、直接対峙する日程を少し早めたのかもしれないな。」



これ以上長引かせてもお互いにメリットがないと判断して、最終対決をすることを決めたのかもしれない。パパやママがこれからどうなってしまうのか、リオレッドがどうなってしまうのかは、その最終対決に全てかかっている。



「何もできずにいるのは、本当にもどかしいことだな。」



王様は椅子に座って、両手を結んで行った。

頭の中がパパのことや最終対決のことでいっぱいの私は、なんとか「はい」と言ってそれに返事をした。



「もちろんこちらから軍を派遣して応戦することも出来るが…。それは最後の一手として残しておきたいんだ。」



私は政治のことはよく分からないけど、"マージニア派"を表明するということと、実際に軍を派遣するってことは、同じようで意味合いも違うんだと思う。一番にテムライム国民を守るべき彼がそう簡単に決断できないことくらいは、無知な私でも理解できる。



「リア。」



それでもやっぱり、こうやって待つのはとてももどかしい。そして頭のどこかでいつだって、"心配"の二文字がこびりついて離れない。絶えずそう考えている私を、王様がとても穏やかな声で呼んだ。



「お互い落ち着かなくなったら、カレッタでもして遊ぼうか。」



カレッタと言うのは、いわゆるチェスみたいなボードゲームで、この国では広く親しまれている。私はディミトロフ家に嫁に来てからラルフさんにやり方を教えてもらって、今では結構な腕前になったと思う。



「それは…すごくいい提案ですね。」



前世でしていたオセロよりも頭を使うから、カレッタをしている間はそのことしか考えられない。他のことで頭をいっぱいにするのはとてもいい案かもしれないって思った。



「ぜひ、お手合わせ願います。」

「こちらこそ。」



母国がピンチを迎えている時にのんきに王様とゲームをしていたなんて、後から言ったらみんなに怒られるだろうか。むしろ次ちゃんとみんなと会って怒られるように、のんきにカレッタを楽しもう。



「私、絶対負けませんよ。」

「俺もだ。」



その時"私も勝ったんだよ"って伝えるために、この勝負には負けられない。強い意志を持って言うと、王様も同じように強い目を見てそう言った。



きっと大丈夫。きっと、正義は勝つはず。

前世の歌にだってそんな歌がたくさんあったじゃない。


結果が分かるまで不安な気持ちが消えることはないだろうけど、だからと言って弱気になるのはやめようと思った。そう思って王様の方を見ると、彼も同じように決意を込めた目でうなずいてくれた。

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