第40話 私の大事な"運送人"


近寄ってみると、手を振っていたのはやっぱりレイヤさんだった。

彼の姿を完全に確認した私が手を振り返すと、レイヤさんはいたずらそうに笑って小さく頭を下げた。



「お嬢!こんちはっ!」

「お嬢って…。」



任侠の娘みたいな呼び方すんなよ。

って思ったけど、もしかしてリオレッドから運んでくれた人の中に、私のことを"お嬢様"って呼んでいるパパの関係者の人がいたのかもしれない。

そう思うと下手には責められなくなって、とりあえず「ごきげんよう」とあいさつを返しておいた。



「よく分かりましたね!」

「ルナが…。娘が、気づいてくれたの。」

「へぇ。」


レイヤさんがルナの顔を覗き込もうとすると、ルナは目が合わないように下を向いた。でも「こんにちは」って言ったレイヤさんを少しだけ見上げて、小さな声で「ごきげんよう」とあいさつをしていた。



「この子も、いい感覚を持ってるんすね。」

「え?」



レイヤさんはルナの頭をポンと撫でた後、こちらを見て言った。

何の話をしているのか分からなくて首を傾げると、レイヤさんは少し驚いた顔をした。



「お嬢知らないんっすか?エルフの子どもは感覚が優れてるって話。」

「え?!そうなの?!」



と、驚いてみたはいいものの、言われてみれば遠くの茂みでウマを見つけた私の感覚も、当時はすごくすぐれていたのかもしれない。

前世でも知らないうちに視力が落ちてたみたいに、この世界でも同じことが起きてたのかもしれないな~と考えていると、レイヤさんはニヤリと悪そうな顔をして笑った。


「お嬢は年だから分からないかもしれないすけどね。」

「と、し…?」



しっつれいな!!!!

私はまだ20代なのに!!!!!!!!



と、本当はその倍くらい生きていることを一旦忘れて、レイヤさんをにらんだ。すると彼は悪そうな顔でクスクス笑って、「すんません」と全く実のない謝罪をした。



「そんなことよりお嬢。お耳に入れたいお話が。」



そんなことて。

私にとっては全くそんなことじゃないんですけど。年とかサラッと言われてキレてるんですけど。って思って睨んでみたけど、レイヤさんはまったく気にしていない顔をしていた。



「最近、テムライムに来たいって人の数が増えてるんすよ。このままではそのうちバレてしまってもおかしくないかと。」



そしてレイヤさんは続けて、さっき難民キャンプで聞いた話をした。やっぱり早々に対策を練らないといけないなと改めて思った。



「さっきリオレッドの人たちにも同じことを聞いて…。対策を考えなきゃって思ってるの。」

「なるほど…。」



今考えていることをそのまま伝えると、レイヤさんはそう言って考え込んだ。何かいい対策でも教えてくれるのかなと思って、レイヤさんが考え終わるのを待った。



「お嬢が一回リオレッドに行って、みんなを安心させる言葉でもかけたらどうです?」

「おい、レイヤ。」



余計なことを言うなと、エバンさんが私より先に声を出した。

レイヤさんはエバンさんに「すんませんっ」と、また実のない謝罪をしていた。



「そうしようかしら。」



今のところ全くいい対策が浮かんでない私は、それも一ついい案かもしれないって思ってポツリと口に出した。



「ほらみろ。お前のせいでまんざらでもないこと言い始めた。」



するとエバンさんは呆れてレイヤさんに言った。私もレイヤさんと同じように「ごめんなさい」と、実のない謝罪をしておいた。



「なんにせよ、現状報告ってことで。」



その空気を断ち切るように、レイヤさんは言った。

エバンさんは不服そうだったけど、とりあえず「ありがとう」とお礼を言おうとすると、彼は「あっ」と何かをひらめいた顔をした。



「あと、アルの兄貴たちや親父さんたちも元気っすよ。お嬢に会ったら伝えてくれって。」



全然付け足しではない重要な情報を、彼はとてもサラッと言った。

なんなら先にそれを教えてほしかったと文句を言いたいところだったけど、それ以上にみんなが元気にやっていることを知れてうれしくなった私は、今までのやり取りも全部忘れて心から笑った。



「ありがとう。」

「とんでもないっす。じゃ、俺戻りますね!」



颯爽と去っていくレイヤさんに、子どもたちは「海賊さんばいば~い!」と嬉しそうに手を振った。"海賊"っていうより、彼はもはや私にとっては大切な"運送人"の一人だ。私も子どもたちと同じように手を振って、「よろしくね~!」と大きな声で付け足しておいた。



「ねぇ、リア。」

「大丈夫よ。行かないから。」



エバンさんに何を言われるか分かった私は、先回りしてそう言った。すると彼は大きく「はぁ」とため息をついて、私の背中に手を置いた。



さぁ、早く帰って対策を話し合わなきゃ。



私は呆れているエバンさんも無視して、子どもたちに「帰ろっか~!」と声をかけた。ウマに乗った後もエバンさんはどこか呆れた様子だったけど、でもいつかこうなる事だって分かっていた気がする。


やっぱり夫婦の以心伝心がすごく上手くいき始めたなと嬉しくなりながら、頭の中では自分が次に何をすべきなのかを考えた。

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