第39話 あのシルエットは…?


「また来ます。」



そこでしばらく考えても対策は浮かばなかったから、私達は一旦その場を後にすることにした。私が話しをしている間みんなに慣れて遊んでもらっていた子どもたちも、明るく「ばいば~いっ!」と言ってこちらに戻ってきた。



「はい!待ってます。」

「本当にありがとうね。」

「リアちゃんも、どうか無事で。」



私はテムライムにいるから超安全なはずなのに、そう言われたのは私が何かしでかすと思われているからだろうか。国単位でそう思われているのは光栄であり、そして恥ずかしくもあるなと思いながら、「ありがとうございます」と返事をしておいた。




「帰りは海沿いから帰ろっか。」

「海~!」

「見る~!」



門を出てウマに乗り込んだエバンさんは、楽しそうな顔で言った。すると海が好きな子どもたちも、すごく嬉しそうにそれぞれ返事をした。みんなが楽しくしている様子を見ていたら私も楽しくなって、「ママも楽しみ~!」と子どものようなことを言ってウマを走らせはじめた。



「海が見えたよ!」

「ホントだ!キレイ!」

「光ってるね~!」



走り始めてしばらくすると、エバンさんの言った通り左側に海が見えた。カイとケンは海が見えたと同時に、ワイワイとはしゃぎ出した。



「ママ!風が冷たいね!」

「そうね。寒くない?」

「ううん!気持ちいい!」



海沿いに吹き抜ける風が涼しくて気持ちいいらしく、ルナはすごく嬉しそうな顔で言った。私も風と一緒に流れてくる海のにおいを体全体に吸い込んで、まるで海を泳いでいるように風を切って走った。



「船が見えるよ!」

「ホントね。」



そして海の遠くの方には、小さく船が見えた。

たぶんあれも難民たちを乗せている船だと思う。ああやって船が滞りなく来ているってことは、同時に伝達が不備なく行われているってことを意味する。ってことはポルレさんもカルカロフ家が滞在している場所に残ってくれているんだって思うと、嬉しい気持ち半分、少し申し訳ない気持ちにもなる。



「ねぇ、ママ。」

「ん?」



いつかポルレさんが帰ったらきっちりお礼をしなくては。

そう思って馬を走らせている私を、ルナが呼んだ。ルナは海の方のどこか一点を、じーっと眺めているみたいだった。



「あそこの人、ママに手振ってる。」

「え?」



そう言ってルナが指さした方を見つめると、確かに海岸の方に小さく手を振っている人がいる気がした。でもその人が私に手を振っているのか確証が持てなくて、しばらくジッと見つめてみた。



「ねぇ、エバンさん!」

「どうした?」



でもルナが"ママに手を振っている"と言ったのが何となく無視できなかった私は、エバンさんを呼んだ。前を走っている彼は少し振り返って、返事をしてくれた。



「あそこで手を振ってる人がいるの!」

「え?!」



ルナが指さした方を私も同じように指さして言った。

するとエバンさんはジッとそちらを見つめた後、「ホントだね」と言った。



「あそこで手振ってるってことは、もしかしてレイヤかも!」



そう言われてみると、シルエットがレイヤさんな気がし始めた。エバンさんが「行く?」って目でこちらを見ていたから一つうなずくと、彼は一緒に来てくれた部下に何やら指示を出した後、ウマをそちらの方向に向けた。



「え~?どこいくの~?」

「海賊さんのところ。」

「海賊さん?!」

「僕会いたかったんだ!」

「ママとリオレッドに行った人だ~!」



急に方向を変えたことに一度は驚いていた子どもたちは、海賊に会えると聞いて楽しそうにし始めた。普通は怖がっていいところだと思うけど、子どもたちにとって海賊はどちらかと言うと"ママを運んでくれた人"に分類されるらしい。



「早い船に乗るんでしょ?」

「そうね。」

「すごいね!かっこいい!」



それに加えてどうやら"早くてかっこいい人"にも分類されてしまうらしい。

こんなこと聞いたらレイヤさんが調子に乗ってしまいそうだなと思ってみたけど、彼にはもうこの会話も聞こえているかもしれない。


そう思うと下手なことも言えなくなった私は、ただ楽しみなことを口にしている子どもたちに「そうだね」って相槌を打つことしか出来なくなった。

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