第38話 私のいいことは彼の悪いこと


「あの…っ。パパやママのこと、知ってる方はいらっしゃいますか?」

「ゴードンさんならピンピンしてます!」



今日ここで一番聞きたかったことを口に出してみた。

すると質問を言い終わる少し前に、食い気味でその答えが返ってきた。



「むしろ王様の手助けをするようなことをしてるから、優遇されてると思うよ。」



そしてそれに続くようにして、一人が言ってくれた。

つまりそれは私の手紙が届いたことを意味しているようで、何だかとても嬉しくなった。



「カルカロフ家がこんな風になったのにゴードンさんが何も行動しなくて、みんな噂してたんだよ。」

「あれだけいつも人のために一生懸命だったのに、どうしちゃったんだろうって。」



でも確かに何も知らない人からしたら、独裁政治をしようとしている人にパパが加担しているように見られてもおかしくないと思う。すごく苦しい立場に立たせてしまっていることを、改めて「ごめんね」って思った。



「でもここでリアちゃんに会ったら、なんとなく色々分かった気がしてきた。」

「ゴードンさんが人のために動かないなんてこと、絶対ないもんね!」



バツの悪い顔をしている私に対して、にっこり笑顔になったみんなが言った。その笑顔を見ていたらなんだか、胸がすごく暖かくなり始めた。



「ええ。」



そうだった。パパは今まで人にどこまでも尽くしてきて、それは私だけじゃなく、たくさんの人が知っている事だ。パパがここまで積み上げてきた"信頼"が、はっきり目に見えた気がした。



「パパはいつだって自分のことは後回しで…。だから最初は私も嫌いでした。」



家族のことも後回しにして、国をよくしたいと思っている人だった。

だからなかなか家に帰ってこないし、いつもすごく忙しそうにしていた。



「ウソでしょ?!」

「リアちゃんがゴードンさんを嫌い?!」



この世界に来た時、パパのことは全然好きになれなかった。

はじめて人にそのことを打ち明けてみると、みんな驚いた顔で口々に言った。私はみんなこんないい反応をしてくれるんだってなぜだか楽しくなって、「本当です」と笑いながら言った。



「娘のことも置いてけぼりで仕事するような人です。きっと今も、誰かのために頑張ってます。」


パパはこの世にたった一人の大切な娘よりも、仕事や人を大切にする人だ。

会えなくても、直接連絡が取れなくても、きっと今この瞬間だって誰かのために頑張っているはずだし、私がテムライムで頑張っていることだって察してくれているはずだ。



「ですね!」

「だね!」



みんなが同調して言ってくれたから、絶対にそうだと思う。

いつかお互い"よく頑張ったね"って言い合える日を楽しみに、私はここで今自分に出来ることをしっかりとやり遂げようと思った。



「そうだ、皆さん。ここまではスムーズに来られましたか?」



そこで視察の目的を思い出した私は、"人の密輸"がうまく行っているかを聞いた。するとみんな一瞬時が止まったように静かになって、少し申し訳なさそうな顔をした。



「それが、さ…。」



するとその中の一人が、苦しそうな顔をして言った。

もしかして何かトラブルでもあったのかと、思わず全身に力を入れて身構えた。



「みんなリオレッドから逃げたがってる。あの王様が怖くて、次は自分が殺されるんじゃないかって。」

「だからテムライム行の船が来ると、対象じゃない人も集まってきてしまったりして…。」

「なるほど…。」



私が想像していたよりずっと、あのクソの恐怖による支配が進んでいるように思えた。このまま放置して人が殺到してしまえば密輸がバレてしまうきっかけになってしまうし、何とかしなくては。



整理券みたいなものを作るか…?

でもその整理券配布に人が集まれば元も子もないし。

そもそもこちらに連れてくる人数が増やせればそれでいいけど、

今ある中型船は結構使ってしまってるしな…。



次絶対すぐ来るから!と言っても不安は尽きないよね…。

いっそのこと私が行って、交通整備みたいなことでもしてみるか…。



「リア。何か悪いこと考えてない?」



どう対策をしようか頭を巡らせている私に、エバンさんが言った。私は恐る恐る彼の方を振り返って、にっこり笑った。



「ううん。考えてるのはだよ。」

「それが僕の言うなんだけど。」



さすが夫婦。

ついに何も言わなくても考えが伝わるようになったか。


なぜか得意げにそう思って彼を見ると、エバンさんは私を見て大きなため息をついた。私は呆れられていることなんて気にすることもなく、それからも出来うる対策を頭の中でぐるぐると考え続けた。

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