第30話 素晴らしい理解者たち
「それでは、報告させてください。」
シャワーを浴びてすぐ軽く支度をしてもらった後、すぐにラルフさんの部屋に向かった。部屋にはすでにエバンさんや部下の方たちが待機してくれていた。
「思ったより、リオレッドの状況はとても深刻でした。イグニア様がじぃじやカルカロフの息のかかっている小さな街を次々とせめて…。行き場をなくした人たちも増えており、周りの方たちも"自分たちもいつか"とおびえています。」
見た通りのことを、そのまま報告した。みんな同じように眉間にしわを寄せながら話をきいてくれたのは、きっと心を痛めてくれているからだと思う。
「これを見てください。」
もちろん私だって心を痛めているけど、痛めているだけでは何も始まらない。私は持ち帰った大きな地図を机の上に広げた。
「カルカロフ家の人たちに会って、彼らの予想を聞いてきました。あちらはこのルートで動いていくのではないかと考えているようです。」
みんな身を乗り出すようにして、その地図を眺めていた。私はリオレッドで書いたルートを指でなぞって、これからあのクソがどう動くと予想できるかをみんなに伝えた。
「本当は軍を派遣したいと思うくらいですが、そういうわけにもいきません。私たちが優先すべきは"テムライム"ですので。」
本当はカルカロフ家を手助けするには、こちらから援軍を送るのが一番なのかもしれない。でも彼らが一番に守るべきは"テムライム"のことで、今"反逆者"となっているカルカロフ家に肩入れさせるわけにはいかなかった。
「だから現状私たちに出来ることはただ一つ。"密輸"です。行き場をなくしてその日食べるものにも困っている方々に行き届くよう、食料を届けたい。」
あくまでも今回は、秘密裏に動かなくてはいけない。
あのクソはもちろん、テムライム側にもそれを気がつかれないように動かなくてはならない。
それでも私は故郷で困っている人たちを、出来るだけ多くの命を助けたい。
「ただこれはあくまでも私のわがままで…。」
でもこれはあくまでも私のわがままだ。
わがままでこの一家を動かして危険にさらすなと言われるのであれば、大人しくしておくしかない。
いや、大人しく、私だけで出来る何かを探すしかない。
もう足が止められない私がそう思っていると、エバンさんがにっこり笑って私を見た。
「カルカロフ家への、武器の支援もだね。」
そして笑顔のまま言った。
ジルにぃに約束はしてきたけどさすがに図々しすぎるかなと思った、私の考えを彼が代わりに口にした。
それに驚いていると、エバンさんは優しく「リア」と言った。
「君の言う"密輸"を、僕は密輸だと思わない。必要な"支援"だよ。お世話になった人たちに恩返しするのも、妻の母国のピンチを助けるのだって僕の仕事だからね。」
エバンさんはすごく優しいトーンで言った。
そんな彼を裏切って一人抜け出した自分は、本当にバカだと思った。
「そしてこれはいずれテムライムのためにもなることだと思う。もしイグニア様が政権を握られたら、テムライムとリオレッドの関係が今まで通り続けられる保証なんてないからね。」
続けてエバンさんは言った。そしてその言葉に、ラルフさんも大きくうなずいていた。
本当にその通りだ。保証がないっていうより、私のことを目の敵にしているあのクソなら、すぐにでも戦争を始めたっておかしくない。
「もし戦争なんて始まれば…。国は貧乏になる。そうだろ?」
リオレッドで王様が言っていたことを、エバンさんも口にした。私はもはや泣きそうになりながら、大きくうなずいた。
「それでこっちのルートが、リアが密輸をしたいというルートなわけか。」
「はい。」
「船は、どうする?」
私が感動をしている事なんて無視して、エバンさんは話を進めた。騎士王になって本当にたくましくなったなって、親みたいなことを考えた。
「船は…。海賊さんたちに依頼しようかと思っています。」
「海賊…。」
多分すでに私が海賊を使ってリオレッドまで行っていたことを聞いているらしいラルフさんは、困った顔で私を見た。初めて接するだろう海賊という存在に、不信感を抱くことは当然のことだと思う。だから私はそんなラルフさんを安心させるためにも、にっこり笑いかけた。
「彼らの技術は素晴らしかったです。ノールの近くの海岸までたった1日で到着したんですよ。本当に驚くべきことでした。」
「気さくでいい方たちでしたよ」と付け足すと、みんなが本格的に呆れて始めたのが分かった。でも無双モードの私にとって、そんなことはもはやどーでもいいことだった。
「その能力をただの"海賊"として放置しておくなんて、あまりにももったいないです。能力を生かすべきです。」
あの能力をただの泥棒として放置しておくなんて、本当にもったいない。国として活用すべきだと言えるくらい、私には革命的な出会いだった。
「その第一歩が"密輸"と言うのは少し矛盾している気もしますが…。彼らが信頼に足るのか皆さんの目で見極めてもらう意味でもぜひ。」
「君って子は本当に…。」
やっと声を発したエバンさんは、やっぱり呆れた様子だった。それでも私が笑って彼を見ていたのに観念したのか、「わかった」とだけ返事をしてくれた。
母国がピンチを迎えて、私の気持ちはどん底まで落ちた。でも顔を上げてみれば、こ私には心強い味方がこんなにもいてくれた。たまに落ち込むことがあったとしても、いつだって上を向いて居よう。
そんな決意も込めて、「ありがとうございます」と笑顔で言った。
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