第31話 スペシャルビッグゲスト登場



「あともう一つ。パパに手紙を残してきました。」



私が続けてそう言うと、エバンさんは「ゴードンさんに?」と首を傾げた。私はあの手紙が届いているのか心配になりながら、「うん」と答えた。



「イグニア様がもっといろんなところに攻め入り始めたら、食糧不足はどんどん深刻化すると思います。そうすると海賊さんたちの小さな船で運べる量では足りなくなると思うんです。」

「なるほど。」



レイヤさんたちは小さくて早い船を持っている。

だから素早く少量の荷物を運ぶにはとても便利なんだけど、たくさんの量を運べないっていうのがデメリットでもある。



「そこで正規ルートの船でも食糧の密輸をしたいと考えています。そのためにはパパの協力が必要不可欠でした。」

「それも、そうだな。」



私の言う事を納得したように、ラルフさんは小さく何度もうなずきながら言った。ラルフさんを見ていたらパパのことを思い出して、また少し心配な気持ちがよみがえってきた。



「もしパパに手紙が届いていなかったら、密輸がイグニア様にバレてしまうかもしれませんが…。」

「いや、きっと届いてるよ。」



スマホ時代みたいに"既読"が付けばいいのに。

そう思いながら不安を口にした私の言葉を、エバンさんが食い気味に否定した。



「だってリアが作った道なんだろう?」



そして自信満々に、そう言った。

私がリオレッドでアルに宣言してきたみたいな言葉だなと思った。



「君が届けたいものが届かないでどうするんだ。」

「そうね。」



さっきまでの不安が一気に吹き飛んだ感覚がして、私も自信満々に言った。するとエバンさんもそれが分かったのか、にっこり笑って「うん」と言った。



「では早速詳しい日程や調達についての相談を…。」



いよいよ具体的な話をしようと、エバンさんがもう一度地図を見た。すると扉の向こうから、使用人さんたちがざわざわ騒いでいる声が聞こえた。



「もう…。」



なんなんだよ。

私は"イレギュラー"に弱いんだから、もうドキドキすることなんて起こさないでくれよ。



もう何回目になるかわからないけど言わせてほしい。



敵襲か?敵襲なのか?



「ちょっと様子を見てくる。」



もう…、何だか疲れてきた…。

やっぱりおとなしく待ってればよかった。

自分から首突っ込んで、毎回同じ後悔してない?

私ってやっぱドMなんだ。ドM。



深刻な顔をして立ち上がるラルフさんの背中を見ながら、相変わらずバカなことを考えた。もしかしてこんな風にのんきなことを考えられるようになったのも、精神が回復した証拠なのかもしれない。っていう考えが一番のんきだ。



そんなことを考えているうちに、ラルフさんが扉の前に立った。そしてノブに手をかけて扉を開こうとした次の瞬間、自動ドアみたいにして扉が開いた。



「君たちは何の相談をしているのかな。」



そしてそこに見えた顔に、その場に居た全員が言葉を失った。知らないうちにエバンさんの手を握っていたらしい私の手は、エバンさんの手の骨が折れてしまうんではないかってくらい強く、彼の手を握り直していた。



「お、王…っ!」



気を取り直したラルフさんは、急いで礼の姿勢を取った。それを見て全員同じように立ち上がって丁寧にあいさつをしたんだけど、私は相変わらずこんな場面なんだか前にもあったな~と、相変わらずのんきなことを考えていた。




「ど、どうしてこんなところに…っ。」

「心当たりはないのか?」



のんきなことを考えている暇もないくらい、状況はシリアスなシーンを迎えていた。だって私たちは王様に絶対バレてはいけないことを相談していて、それをなぜかここに来た王様に見られているんだから。



いや…っ、私よ!目を覚ませ!

何か言い訳を考えなきゃ!

それまでなんとか存在感を消すんだ!

せめて何か思いつくまで…



「リア。」



空気読んでくれ~~~~!王様~~~~!

今、たった今私、空気を消したはずなんだけど…。



「はい。」



全然存在を消していられなかったらしい私の目を、しっかりと王様は見ていた。その間も一生懸命頭を働かせてみたけど、いい言い訳は全く浮かんでこなかった。



「君はさっきまで、どこに行っていた?」

「えっと…。」



どこって…。リオレッドです!

とはさすがに正直に言ってはいけない空気は読めていたから、頭をフル回転させて何か言葉を探した。考える時間が長ければ長いほどいいわけが苦しくなりそうだって思った私は、覚悟を決めて王様の方を見直した。



「ちょっと…。お散歩、に?」



ロクでもないいいわけが、口から出てきてしまった。

お散歩って…。旅行の方が良かったかな…?

いやどっちもどっちか…。


もう…っ!エバンさん!助けて…っ!



「君にとってリオレッドに行くことも、"お散歩"のうちの一つなのかな?」



するともうこれ以上言い訳の出来ないセリフを、王様が言った。ただならない空気を肌で感じている私は、さすがにバカなことを考えられなくなって、ついにジャパニーズ土下座の準備を始めた。

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